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お題/親子水入らず

~嵐 × テツ太 + 愛実 ~ 今夜は久しぶりに愛実と二人きりだ。 どういう心境の変化か、ランはクラス会に出掛けて行った。 ぼっちにならないかと若干心配ではあるが、ランが決めた事だ。 ランも立派な大人なわけだし、俺かとやかく言う事でもない。 結果がどうであれ、俺がランにしてやれる事は、普通に送り出して、普通に出迎えてやる事くらいだ。 俺が料理が苦手な事を見越してか、昨夜はカレーだった。 だから鍋には、残り物のカレーがある。 愛実が辛くて食が進まなかった事もあって、わざわざ甘口に手直しして出掛けて行った。 有難すぎて涙が出そうだ。 「ぱぱー、らんはー?」 「ん?ランはお出掛けだ。」 「らん、おそいの?」 「あぁ。多分、愛実が寝てからじゃないかな。」 「らん、しんぱいだね?…」 「そうだな。」 「よるのおそとあぶないってみねこせんせーいってたよ?」 峰子先生というのは、保育園のさくら組の担任の名前だ。 「ランはもう大人だから大丈夫だ。だから、愛実は心配しなくていいんだぞ。」 「うん!」 「明日、いつもみたいにギューってしてやりな?」 「まな、ぎゅーってするー!ぱぱはー?」 「はぁ?」 「ぱぱも、らんぎゅーってするー?」 「しないしない。」 親子の会話を楽しみながらキッチンに立ち、鍋を温める。 片腕に抱いた愛実はなかなかに重い。 子どもの成長というやつは早いものだ。 服も靴もすぐに合わなくなる。 最近、靴がキツそうだからそろそろ新しい物を買ってあげよう…と思いながら、予め準備をしていた皿に飯を盛った。 「ぱぱ、まなもおてつだいするー・!」 「お、手伝ってくれるのか?助かるな。じゃぁ、机にパパと愛実のスプーンを並べてくれるか?」 「はーい!」 愛実を下ろすと、スプーンを二つ小さくて可愛い手に握らせた。 パタパタ走りながら、センターテーブルにスプーンを並べる愛実は、我が娘ながら可愛い。 最近、愛実は死んだ夏実に似てきた。 俺似だとばかり思っていたのに… 幼い頃の夏実を見ているようで少し困る。 「パパのお手伝いをしてくれている、いい子な愛実ちゃん。」 「はーい!」 「もうすぐカレーが出来るから、手を洗って自分のお席に座ってください?」 「はーい!」 パタパタと愛実の可愛い足音が響く。 洗面所から、愛実用の踏み台を引く音がする。 ジャーッと加減知らずに水が流れる音に思わず苦笑しながらおたまでカレーを混ぜた。 暫くすると、愛実が戻って席に座った。 「愛実ちゃん、手は綺麗に洗えましたか?」 「はーい!ぱぱ、みねこせんせーみたいだね?」 「はは、峰子先生にそっくりだろ?」 「うん!まなみねこせんせーだーいすき!」 「そうか。良かったな。」 「うん!ぱぱ、まなおてつだいしていーこ?」 「あぁ、愛実はいい子だ。」 「えっへん!」 荒んだ心が洗われるようだ。 火を止めて、飯にカレーをかける。 良い匂いが部屋中に広がる。 カレーを運び愛実の前に置くと、もう愛実はスプーンを握っていた。 「愛実、行儀が悪いぞ。」 愛実が慌ててスプーンをテーブルに戻した。 カレーは溢すと厄介だ。 愛実に大好きな某国民的猫のエプロンをさせて二人で手を合わせる。 「「いただきます。」」 いつもはここにランの低い声がある。 それがないのは珍しい事だ。 スプーンの音が部屋に響く。 「らんのかれーおいしーね?」 「そうだな。パパはこんなに上手くは出来ないからな。」 「ぱぱのもおいしーよ?」 「愛実はいい子だな、本当に。」 「まな、いーこだよ!」 「あぁ、パパは幸せだ、愛実みたいないい子が娘で。」 「えっへん!」 保育園で流行っているのか、最近の愛実の口癖だ。 両手を腰にあててドヤ顔をする。 いかにも子どもらしい台詞とポーズだ。 「それ、保育園で流行っているのか?」 「んーとね、みんなしてるよ!」 これが他人を不快にさせるような変な事なら注意するが、なんかとにかく可愛いから許す。 「そうか。可愛いな。」 「えっへん!」 あざとい… 母親に似てあざとい… 嫌な意味のあざといではなくて、愛らしいあざとさというか、なんというか… 夏実は身体は弱かったが、よく笑う明るい人だった。 そんなところまで似てくるだなんて… やっぱり親子だ。 「愛実、口の周りにカレーが付いてるぞ。」 「ぱぱとってー。」 「仕方ないな。…あと、人参さんは食べろよ。」 「にんじんさんやーのー。」 「人参さん食べられたら拭いてやる。」 「うー…」 「一つだけでいいから。ちゃんと食べないとランの雷が落ちるぞ。」 愛実が慌てて人参を口に入れた。 そして、目を閉じて2、3回噛むと喉に流し込んだ。 「…うぇ…にんじんさん…まずい…」 「よく食べたな。」 「いーこ?まなえらい?」 「あぁ、いい子いい子。」 愛実の頭を撫でてから、少し身を乗り出してティッシュで口元を拭った。 「えへ、まないーこだよー?ぱぱ、ありがとう!」 「いえいえ。」 「らんのかれー、おいしかったね。」 「あぁ、そうだな。」 「にんじんさんまずい…」 「どんだけ嫌いなんだよ。」 「らんがいたらもっとおいしーね?」 「そうだな。明日は三人で食べような?」 その言葉に愛実が満面の笑みを浮かべ、それに釣られて俺も笑う。 食べ終えたスプーンを皿に置き、手を合わせる。 「「ごちそうさまでした。」」 片付けた後、愛実を風呂に入れて、テレビを見てまったりしながら洗濯物を畳んだ。 いつもなら、ランが愛実を構ってキャッキャッと笑い声が響いている筈の時間だ。 ふと愛実を見ると、クシクシと目を擦ってうつらうつらとしていた。 「愛実、そろそろ寝るか?…」 「ん…まなねるー…」 「歯磨きしような?」 「やーの…」 「駄目だ。虫歯は嫌だろ?」 「うー…」 愛実は今にも寝そうだ。 眠くて不機嫌になっている愛実をそのままに、洗面所から愛実の歯ブラシを持ってきた。 「ほら、愛実、あーんは?」 「あー…」 愛実は小さな口をこれでもかと開けた。 シャカシャカと歯を磨いた。 今ではすっかり慣れたが、他人の歯を磨く時の力加減はなかなか難しいものがある。 歯磨きを終えて、寝かしつけると愛実はものの数秒で寝息を立て始めた。 ランが帰る気配がない。 布団を抜け出してリビングのソファーに腰を掛けた。 落ち着かない… 立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出してプルタブを引く。 喉を鳴らしながらそれを飲んだ。 そうこうしている間に一日が終わった。 不安に襲われ始める。 俺みたいな子持ちの男より、久しぶりに会った同級生の女に惹かれていたらどうしようだの、途中で事故にでも遭っていたらどうしようだの… 夏実みたいに、もう二度と会えない場所へ行ってしまうよりかは、まだ前者の方がマシだ。 幼なじみである妻を亡くした… 今度は親友である恋人を失うなんて… 寝もせずに相手を待ちながらこんな事を考えるだなんて… 外が明るくなり始めた頃、玄関が音を立てた。 ひっそりとした足音が近付いてきた。 「…遅かったな、ラン。」 「テツ、起きてたのか…」 「…朝帰りか。」 「終電逃してな…」 「…馬鹿、心配するだろ。」 「…悪かった…連絡しようかとも思ったんだが、深夜だったからな…」 「…本当に、心配したんだぞ…」 「…だろうな。テツ、泣きそうな顔してる…」 「…全然帰って来ないから、お前が事故にでも遭ったんじゃないかと思って…」 「…安心しろ。俺は、お前より先に逝ったりはしない。1秒でも長く生きる。」 フワッとランの香りが広がる。 すっぽり腕の中に収められてしまった。 「………お前、クサい…」 「おい、ムードもなにもねぇな。」 酒の匂い… これが、女の香水の匂いだったら拗ねるくらいの事はしたかもしれない。 「…どうだったんだ?」 「クラス会の事か?」 「それ以外になにがあるんだ。」 「楽しかった、普通に。みんな大人になって、色んな経験をして、柔らかくなったんだろうな。もちろん、それは俺も例外じゃない。」 「そうか。お前が楽しめたなら、俺はそれでいい…」 ギュッとランの背中に手を回した。 「俺が変われたのは、テツのおかげだ。テツに出会わなかったら、俺はどうなってたか、想像するのも怖い…」 「お前が俺と出会ってくれないなら、俺の方からお前を探す…」 「どの口が言ってんだ。妻子持ちだったクセに…」 「…それを言うな。今は、本気でそう思ってる。お前の居ない世界なんて、俺にはあり得ない…だから、あんまり心配させるな…」 「あぁ…」 「…お前は誓っただろ?…付き合うって事になった時に…」 「あぁ…」 「…もう一度誓え…」 「…俺は、お前より一秒でも長く生きる。約束する…」 「約束破ったら許さない…」 「あぁ、破らねぇよ。…ホントは、お前を失う悲しみなんて一秒だって味わいたくねぇけど、約束しちまったしな…」 「破ったら来世は出会ってやらないからな。」 「そしたら、俺が探す。そして、夏実より早くお前を見つける。」 「それだと夏実に奪われるかもだぞ?」 「そんな隙も暇も与えねぇ。」 「恐ろしいヤツだ。」 「本気だ…」 ランの独占欲丸出しの台詞に苦笑する。 「…なぁ、ラン…」 「ん?」 「…キス…したい…」 「可愛い奥さんのおねだりなら、聞いてやらないわけにいかねぇな…」 ゆっくり顔が近付く… 相変わらずの強面だ。 唇が軽く触れた時、足を温かいものに掴まれた。 視線を落とすと、そこに漆黒の鳥の巣を見た。 「まっ、愛実っ!?」 慌てまくってランから離れた。 一体いつから… こんなのは教育上よろしくない。 よろしい筈がない。 愛娘がませガキになる事はなんとしても避けたいと思うのが親心というヤツだ。 「おーどうした、マナ。」 ランは冷静だ。 俺の足をがっちりホールドしていた愛実は、その手を離してランに手を伸ばした。 そんな愛実をランが優しく抱き上げる。 「まなもちゅー…」 「あぁぁぁ…俺の娘がぁぁぁ…」 父親としては愛娘の発言に頭を抱えるしかない。 男相手にキスをせがむ破廉恥な娘に育てた覚えはない。 「テツ落ち着け、寝ぼけてるだけだ。」 「らん…まなも…」 チュッチュッとランの頬を啄む。 「あー、分かった分かった。マナも落ち着け。」 ランが頭を優しく撫でると愛実が小さく欠伸をしてクシクシ目を擦る。 「ちゅー…」 「へーへー、してやるから。」 チュッとリップ音を立てて額にキスをすると、愛実は満足そうににへっと笑って、その3秒後には寝息をたてていた。 「ラン、お前浮気確定。」 「マナは別腹。」 「別腹って…。父親を前に堂々と愛娘にキスをするな。2倍複雑だろう。」 「はは、娘に嫉妬か?…お前へのキスはこんな可愛いもんじゃねぇだろ?」 ランが耳元でそう囁くと、その耳がチリチリと熱を持つ。 「ッ……じゃぁ、俺へのキスとやらはどんなものだ?…」 「へーへー、おませなお父さんは愛娘を布団まで運んで先に寝てろ。」 ランは軽く俺の頭を撫でてから愛実を渡すとそそくさと洗面所へ消えていった。 - end - ランテツ+マナでした。 個人的に子持ちカップル萌です。 マナちゃんが珍しく空気読まない。 でも、可愛いオチがついたのでよし。 みつき。

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