18 / 19

お題/ヤキモチ?

~ 総一郎 × 蹴人 ~ 金曜日のバイトの後、店の前で八神にピックアップされて、いつも通り八神の家に向かった。 最近は、金、土と八神の家に泊まって日曜の夜に帰宅する事が多い。 新しい年を迎えたのはついこないだのようだが、もう2月だ。 365日… 数字にすると長く感じるが、一年なんてあっという間に過ぎていく。 春には4年に上がって、6月頃には就活が始まる。 去年の夏から冬にかけては、何社かインターンシップに参加した。 就活はインターンシップから始まるとはよく言うが、参加してみてその通りだと思った。 大学に通っているだけじゃ分からない情報がゴロゴロしていた。 今の時代の傾向だったり、どんな人材が求められているのかだったり。 仕事の内容とか流れもそうだが、就活に役立つ情報を得られたり、人脈ができるのがなにより有り難い。 インターンシップの収穫は思っていた以上にデカかった。 3月にもなれば情報もぼちぼち解禁されるだろう。 のんびりしていられるのも今のうちだ。 インターンシップの期間は、八神にしては頑張ったと思う。 得意の会いたいは一切言わなかったし、電話やメールも控えてくれた。 三日が限度だったが、それでも褒めてやるに値すると思って褒めてやったら、全力で喜ばれてドン引きした。 俺の知っている八神総一郎という男はそういう奴だ。 しかし、社会の認識は少し… いや、だいぶ違うらしい。 今回インターンシップに参加してみて、それがよく分かった。 『八神コーポレーション』 八神の会社の名前だ。 八神の父親が命名したんだろうが、正直パッとしない名前だと思う。 だが、冴えない名前をした八神がトップを務める会社に入社したいヤツは五万と居るらしい。 インターンシップで知り合った半分以上の学生はエントリーシートを出すつもりだと言っていた。 一流企業だからとか、有名だからとかそんな理由のヤツも居たが、殆どが八神の下で働いてみたいと言っていた。 とにかく、八神へのリスペクトが半端なかった。 八神は凄いヤツらしい。 インターンシップで聞かされた八神は、どれもこれもが俺の知らない八神だった。 それを聞きながら、俺は今まで感じた事がない気分になった。 イライラするというか、モヤモヤするというか… とにかく、あまり良い気分じゃなかったのは確かだ。 そんな事も知らないのかと言われているようで、何ヵ月も前の事なのに思い出すだけで腹が立つ。 「蹴人。」 「あ?」 「怖いよ。声色もだけれど、眉間に皺も寄っているし、君の可愛らしい顔が台無しだよ。」 眉間の皺を伸ばしてくる手が鬱陶しくて払い除けた。 「気のせいだろ。」 集中して本を読んでいた筈なのに、俺のちょっとした変化を見落とさない。 八神には見えざる目があるに違いない。 「本に夢中になってしまって、君を淋しくさせてしまったかな?」 「それはない。」 「ふふ、残念だな。」 八神がクスクス笑いながら、パタンと本を閉じた。 二人で過ごす時は、大抵ソファーに居る事が多い。 俺が定位置とばかりに着くなりソファーに直行するから自然とそうなる。 八神は本や新聞を読んでる事が多い。 俺は、漫画を読んだり、携帯を弄ったりしている。 一つのソファーで思い思いに過ごす。 幸か不幸か、 今はセックス有りきの関係じゃない。 こういう時間があって当然というわけだ。 よく分からないが、別々の事をしていても、八神はどこかしら触れていたいらしい。 広いソファーに男二人が肩を寄せ合ってと…いうのも気持ち悪い。 だから、最近は八神が端に座って、俺が寝そべって足か頭を八神の膝に乗せるというスタンスに落ち着いている。 ちなみに、今日八神の膝に乗っているのは頭だ。 「なぁ…」 「うん?」 「お前って、凄いのか?」 俺の問いに、八神は数回まばたきをした。 「どうだろうね。君は、どのように感じているのだい?」 正直、八神が俺の前で凄かった事なんて一度もない。 俺に酷い対応をされても、へこたれずに追いかけてくる執念深さに関しては凄いとは思う。 八神は、俺よりも十歳以上も年上だが、特別大人らしい訳でもないし、言っちゃ悪いがヘタレた部分が多い。 「…」 「考え込むだなんて酷いなぁ。」 「………お前の作る飯はどれも美味くて…」 「うん。」 「…凄い…と思う。」 褒め慣れないせいか上手く言葉が出ない。 八神は俺を怒らせる天才だ。 だから、八神に関しては褒めるよりも怒っていた方が楽なところがある。 そう思えるのは… 安心して怒る事ができるのは、八神が俺に合わせてくれているからなのかもしれない。 一緒になってキレられたり、ウジウジしたりされたら、俺は怒るだけ無駄だと判断するだろう。 八神がそういう人間だったなら、怒る事も話す事も諦めていたかもしれない。 この場合の諦めは、無関心を意味する。 無関心から生まれる物はない。 つまり、関係が発展する事なく、そこで打ち切りという訳だ。 でも、八神はそういう人間ではなかった。 俺の怒りを受け入れて、悪かったと思えば謝るし、間違っているならきちんと正してくれる。 それを瞬時に当たり前のようにやるようなヤツだから、分からなくなる。 懐が深い男なのか、ただの怒られ好きな変態M野郎なのか… 「ありがとう。とても嬉しいよ。」 しかし、咄嗟に思いついた八神の凄い部分が飯の事とか… 普段の飯はもちろん、クリスマスはプロさながらの料理とケーキ、正月はお雑煮に重箱にびっしり詰まったお節。 俺の嗜好を理解して、がっちり胃袋を掴まれている。 八神の凄いところ… そんな事くらいしか思い浮かばないのに、嬉しそうな顔をされたら、なんだか申し訳なくなる。 きっと、褒めてやるべき事は他にも沢山ある筈だ。 インターンシップに参加していたヤツらは、八神の凄いところをポンポン口にしていた。 それなのに… 八神だって、凄いところを並べられないようなヤツより、これでもかと口にされた方が嬉しい筈だ。 「…」 「蹴人、君がなにを悩んで心を乱しているのか俺には分からないけれど、もしも俺に関係する事だったのなら、嬉しいよ。」 「は?…自惚れすぎだろ。」 「そうだね。自惚れる事がないように心掛けてはいるけれど、君の事に関しては…。困ったな、俺もまだまだだね。」 「意味が分からない事を言うな。」 「少しでも希望があるのなら、自惚れていたいと思ってしまうのだよ。」 困った。 自惚れているのは、八神じゃない。 八神なら、俺がなにをしても受け入れて理解しようとしてくれると、そんな勝手な事を思っている。 八神に甘え切っているのは、俺だ。 「…」 「料理を褒めてもらえた事は、本当に嬉しいよ。俺が、君だけの事を思って行っている事の一つだからね。料理を作る事は元々好きだったのだけれど、君と出会って更に好きになった。君と俺の時間に彩りを添えたくて、より良い物を…と研究する事が楽しくてたまらない。君は、俺をきちんと見てくれているのだね。」 「べ…別に俺は思った事を言っただけだ。」 「そう。無意識だと言うのならば、尚更嬉しいよ。」 この男を可愛くて仕方がないと思うなんて、本当にイカれている。 俺は、トップとしての八神の姿は知らない。 だが、そこから離れた八神なら知っている。 八神の可愛さなんて、きっと折戸さんでも知らないと思う。 知られてたまるか… そんなのは、俺一人知っていれば良い事だ。 他の誰かが俺が知らない八神を知っている。 それは当然の事だ。 いちいちイライラしたり、モヤモヤしたりしても仕方がない。 分かっていても悔しくなるし、焦る。 何故だ… これ以上考えていても答えは導き出せないと思う。 「八神。」 「うん?」 「腹が減った。」 また何度もこういう事は降りかかってくるだろう。 人間は思考を巡らせる生き物だ。 だから、その度に悩まされるんだろう。 これ以上考えたら厄介な場所に辿り着きそうな気がする。 「では、お夕飯にしようか。」 「あぁ。」 頭を上げると、八神はスッと立ち上がりキッチンへ歩き出した。 「蹴人、なにか食べたい物はあるかい?」 「なんでもいい。」 「作る側としては一番困る返答なのだけれどね。せめて、和食か洋食かだけでも…」 「なら中華。」 「本当に君は…」 多分だが、この感情は八神と居る限りずっと俺に付きまとってくるだろうから。 これから先上手く付き合っていくために、今日のところは八神の定番の台詞を聞きながら蓋を閉めた。 - end - 総一郎さんと蹴人くんのその後です。 お約束の同棲まであと少し。 就活終わったら新居を探したら良いと思います。 本編が完結して三年、引っ越しが完了して二ヶ月。 久しぶりでかなり探って書きました。 こんなだったかなと… お題はヤキモチだったのですが、きちんとなってるか心配です。 あまりにも心配なので、タイトルに?入れちゃいましたwww お付き合い、ありがとうございました。 みつき。

ともだちにシェアしよう!