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第3話
パンが焼ける香りに、ベーコンがジュワジュワ焼ける音。そういえば昨日の夜って何か食べたっけ?
ソワソワと落ち着かない気持ちをなんとか誤魔化そうとスマホをいじってみたが、とくに見たいものもやりたいこともなく指が泳いだだけだった。
そしてコトリと目の前に置かれたボリュームたっぷりのサンドイッチに、秀一は思わず涎が垂れそうになった。
「お待たせ致しました。只今コーヒーお持ちいたしますね。」
男性の静かな声はあまり耳に届かず、秀一は早々にサンドイッチに手をつけた。
出来立てで温かいそれにかぶりつくと、パンとレタスがザクッと音を立てる。酸味が食欲をそそるトマト、厚切りベーコンの肉汁が口の中に広がってはとろけていく。
美味しい。
秀一が夢中で分厚いサンドイッチを貪り、半分を食べきったときだった。
男性の白く細い手が目の前にすっと現れて、芳醇な香りを立てる黒い液体。
「…………あ…」
コーヒーだ。
秀一は実は、コーヒーが飲めない。カフェオレやらカプチーノならなんとか飲める程度で、こんな黒々した見るからに濃いブラックはとても飲めない。
もちろんテーブルの上にシュガーとミルクは用意されているが、それを店員の目の前でドボドボ入れるのも気が引ける。
腹が鳴った恥ずかしさと食い物の写真に夢中で、飲み物なんて考えもせずに鸚鵡返しに返事してしまった。
どうしよう。
ちらりと男性を見ると、既にカウンターに戻って洗い物をしている。この隙ならシュガーとミルクを大量投下しても気付かれないかもしれない。
意を決して、シュガーを二つ。
ミルクピッチャーの中身を全部投入して、ティースプーンでなるべく音を立てずに混ぜて、一口。
「にがっ…」
あ。
と、思った時にはもう遅かった。
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