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第4話
綺麗な二重の瞳を大きく開いてパチパチさせながらこちらを見ている気配がする。秀一がそろりとカウンターを見ると、男性はオーダーを確認して首を傾げていた。
オーダーが間違っているはずがない。秀一は確かにコーヒーを頼んだのだから。
「もしかして、コーヒーも紅茶も苦手でしたか?」
男性の問いかけに、秀一は小さく小さく頷いた。
紅茶も飲めなくはないが、好んでは飲まない。普段の飲み物はスポーツ飲料が麦茶だ。子どものようで恥ずかしいと思うのだが、どうにもこうにも苦味に弱いのだった。
秀一が気まずくて小さくなっていると、クスリと小さく笑う声。
男性の苦笑だった。
「仰ってくだされば良かったのに。カフェオレなんかも苦手ですか?オレンジジュースとかにします?」
「あっ…えと、いえ、甘いコーヒーなら…」
「かしこまりました。すぐお淹れしますね。」
嫌な顔一つしなかった男性は再び秀一に背を向けた。程なくしてコーヒーの香りがして、現れたのはふんわりと泡立ったカフェオレ。ふんわりと立つ甘いミルクの香りが秀一の胸をホッと撫で下ろしてくれた。
秀一は恐る恐る口をつける。ふわりと香るコーヒーの香りの中にミルクの味わいがまろやかに口の中で転がっていき、秀一の苦手なコーヒー特有の苦味や酸味を感じさせずに喉を嚥下していった。
「…美味しい。」
「よかった。こちらはお下げしても?」
「あっ…ありがとうございます。」
「いえいえ、ごゆっくりどうぞ。」
優しい。
久しく食べていなかった美味しいご飯に甘いカフェオレ、優しい微笑みと穏やかな言葉。
散々な1週間を過ごし、恋人に振られて幕を閉じるという多大な傷を負った秀一の心に彼の優しさがじんわりと染み入って、秀一は堪えきれずにぼろりと涙を零した。
「ひぐっ…」
しかも汚いしゃくりまで上げてしまった。
当然のことながら男性はギョッとして振り返る。でももう止められない。秀一は顔をぐしゃぐしゃに歪めて、しばらく拭いていない汚い黒縁眼鏡を雑に外すとおいおい泣き始めた。
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