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第20話

黙々と朝食兼昼食のナポリタンを口に運んでいると、ふと視線を感じる。 恐る恐る視線をあげると、嫌味なほどのイケメンがドアップで目の前に現れた。 「あ、あの…?」 「ん?ああ、気にすんなどーぞ冷める前に食べて食べて。」 「あ、はい…」 気にするなと言われても、知らない人に目の前に座って凝視されていたら食べ辛い。 秀一はちらりと店内を見回して密かに桜井に助けを求めたが、生憎他の客とにこやかに談笑中だった。壮年の男性が何かに笑いながら桜井の腰、それも尻と腰のギリギリのラインをポンと叩く。やめろセクハラオヤジと叫びたくなった。 「なー、眼鏡君。」 「はい。」 「君、奏真の彼氏?」 「ブッ!?」 「あれ?違うの?なんだじゃあいいや。」 盛大に噎せ返っている秀一に水の入ったグラスを差し出してくれた男は、秀一がグラスを受け取ると興味を失ったようにダランと背もたれに体重を預けた。自然な流れで組まれた脚は、ジーンズの丈を詰める必要が無さそうなほどに長い。 「いやさ、ちょっと面倒な女いてさ…奏真に恋人のフリしてよーって頼んでるんだけどあの通りでさー…前は受けてくれたのになんでだろって思って。」 「はぁ…」 「んで、恋人でも出来たんかなと思って。ここに若い人が一人で来るの珍しいからお兄さんそうなのかなって思ったんだけど…」 チャラい。 秀一の中で彼の評価が急速に落ちていく。 面倒な女って、彼女ではないのか。彼女だとしても彼女と別れる口実作りに桜井を利用するとは何事だ。しかも以前了承した?フリだけでも恋人っぽく見えることをしたということか? 心の底から羨ましい! 秀一の生真面目な性格と心の奥に隠してある欲望が相まって、目の前の男に対する嫉妬心がむくむくと湧き上がる。その嫉妬心の大きさは秀一の手の中のフォークに巻きつけられたナポリタンの量と比例するように、フォークには大きなナポリタンの塊が出来上がった。

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