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第28話

何言ってくれちゃってるのこいつ。 ついさっき、本当につい先刻だ。秀一が桜井に惚れているだのなんだのの話をしたのは。なのに今、彼女からのプレゼントかと桜井の前で聞くか。どういうつもりだ。 「あ、あの…?」 「いやさー、サラリーマンが自分で買うにはイイもん持ってるなと思って。秀一くん服とか装飾品興味なさそうだしさー。」 「悪かったですねセンスがなくて…!!」 「そこで俺ってば閃いちゃったわけよ!」 ビシィッ!と効果音が付きそうな勢いで突き出された指は、見事秀一の頬に直撃した。 「秀一くんってば多分こう見えてモテる!」 「おい剛…」 「それも年上のキレイなお姉様タイプに可愛がられるタイプ…あたっ!!」 「お前ほんと帰れよ。」 どうだ!と言わんばかりにドヤ顔で鼻息を荒くしている望月の頭を叩いたのは渋い顔をした桜井だった。 一発殴りたいと思うも気の小さい秀一にそんなことが出来るはずもなく頭の中でタコ殴りにするという些細な復讐に留めた秀一にその光景は物凄くスカッとする光景である。桜井が物凄くカッコよく見えるのは気のせいじゃないはずだ。 「桜井さん…!」 「すみません、本当に失礼なことばかり…」 「なんだよ奏真だって本当は気になるくせにさー。」 「え…?」 「剛!」 「はいはい、この後仕事なんで何度も言われなくても俺は帰りますよー。」 桜井の叱咤から逃げるようにその場を離れた望月は、ピアノの側に置いてあった小さなこれまた高そうなバッグを手にすると秀一にそっと耳打ちした。 「頑張れ秀一くん、脈はあるぞ。」 と。 「ちょっ…望月さん!」 「剛お前いい加減に…!」 「じゃあねーまた来るねー。」 2人分の制止をものともせず、望月はキラキラしたイケメンスマイルを振り撒いて颯爽と去っていった。 後に残されたのは、何を言われたのか未だ飲み込めていない秀一と頭を抱えて溜息をつく桜井だけ。BGMも止まったままの店内には、雨が窓枠を打つ音だけが響いていた。

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