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第29話
静まり返った店内に響く雨音がやたらと脳に響く。
ちらりと桜井を見やると、向こうもちらりとこっちを見たところで、バチンと変に視線が合ってしまった。
どうしよう。
桜井のちょっと薄い色の瞳がジッとこちらを見ている。
『頑張れ秀一くん、脈はあるぞ。』
脈はあるって、脈あり?
桜井さんも俺に気がある素振りを見せたってこと?期待していいってこと?いや待て待て、それ以前にあいつの言うこと信用して大丈夫か?面白がって適当なこと言ってる可能性も十二分にあるぞ秀一よ。
秀一の頭の中を駆け巡るのは期待と懐疑。恋の成就を匂わせる望月の言葉への期待は高まるものの、今日一日で見た軽薄な言動への不信感がそれを邪魔する。
基本的にクソがつくほど真面目な秀一は昔からチャラチャラした人間への偏見が物凄かった。信用はできないけど、都合のいいところだけ信用したい。我ながらズルい人間である。
気のせいだろうか、逸らせないままでいる桜井の瞳はなんだか水分を多く含んで、店の明かりに助けられキラキラ光っているのが物凄く綺麗だ。その瞳がちょっと困ったような色を見せているのが堪らなく色っぽくて、吸い込まれそうというかむしろ飛び込みたいようなそんな不思議な感覚に陥り、思わず手を伸ばそうとして─
「すぅううーーー…はぁぁああーーー!これ!タオル!ありがとうございました!洗ってお返しします!」
我に返った。
「え?あ、いやいいですよ!なんならそのまま使っていただいても…」
「いえ!!返しに来ます!!来たいんです!!来させてください!!」
「は、はぁ…」
「桜井さん!!」
ビクゥッ!
と桜井の細い肩が跳ね上がった。
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