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第39話

職場からの帰り道にあるターミナル駅のデパ地下スイーツコーナー。秀一は既に小一時間そこをうろうろしている。あっちの店を物色してはこっちの店、今度はそっちの店へ。そしてまた最初の店に戻って来る。 病み上がりの休日出勤を終えて大分お疲れの表情でショーケースの中を凝視する秀一に、若い女性店員は明らかにドン引きしていた。 「はぁ〜〜〜…わっかんね…」 今日は土曜日。 タオルを借りたりご飯を作って貰ったり、先日から世話になりっぱなしの桜井へのささやかなお礼の品を買いに仕事帰りに寄ったのだが、桜井の食の好みがさっぱりわからず秀一は困り果てていた。 今日買って明日お店に行くときに持って行こうと思ったのに。 洋菓子がいいのか和菓子がいいのか、そもそも甘いものを食べるんだろうか。無難にお茶とかの方がいいのかもしれないし、でもお茶と言ってもいろいろある。日本茶に紅茶にコーヒーや中国茶、ちんぷんかんぷんだ。コーヒーは好きだろうが、好きだからこそこだわりがあるかもしれない。 なんて、ここまで考えだすともう何を贈っていいものかさっぱりだ。 悶々と考え込む秀一の顔はどんどん険しくなり、店員の顔もどんどん怯えの色を濃くしていく。 いよいよ警備員でも呼ばれるんじゃないかという頃、トントンと秀一の肩が叩かれた。 反射的に振り返ると。 むに。 「秀一くんじゃん。スーツ着てるから一瞬わかんなかったー。何してんの?」 パリッとした開襟の白シャツに黒いジャケットで、これからすぐにでもデートに行けそうな出で立ちの望月に頬を突かれた。 「望月さん…デートですか?」 「んにゃ、仕事帰りだけど?俺ってば今貴重なフリーの身だし。」 「この前の面倒な女ってのは?」 「無事別れた!」 満面の笑顔でVサインを作る望月に、秀一は白い目を向けて、すぐにハッとした。 もしかして、もしかして桜井さんに協力してもらったとか?その気がない─と思いたい─桜井さんとイチャイチャしたのか?許すまじ! 「あ、安心して〜奏真には何も頼まなかったから!了承してくれなかった!」 なら勝手にしてくれ。

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