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第40話

望月の手にはこのデパ地下に入っている有名和惣菜店の袋。時間からして、夕飯にするつもりなのだろう。 仕事帰りにデパ地下で夕飯を買って帰るなんて、こいつ本物のセレブか。秀一の羨望と嫉妬が2:8で入り混じった視線をものともせず、望月は目の前の洋菓子店に並ぶ小洒落た箱に詰められた焼き菓子を眺め、不意に口を開いた。 「焼き菓子買わなくなったな〜奏真が作ったのやたら美味いからな…焼き立てだし。」 「え、ちょっ…桜井さんの手作り!?焼き立て!?」 「え、何知らないの?奏ちゃんお菓子も上手に作るよ?ランチ以降は店にも出してるじゃん。」 「知らない…!」 衝撃の雷に打たれた秀一に、望月はありゃまぁ、と気の抜けた返しをした。 秀一がTräumereiに行くのはいつもモーニングだ。ランチの時間帯に行ったのはこの前望月と出会った日が初めてのことで、あの日は望月と桜井の関係に悶々させられていたせいでメニューも大して見なかった。 桜井さん、お菓子も作れるんだ。すごい。もうなんでも出来るじゃないか。 と、1人感動して、ハタと気がつく。 そうだ、望月に聞けばいいんじゃないかと。 悔しいが桜井のことは望月の方が数百倍は知っているだろう。食の好みなんかも知っていてもおかしくない。 死んでもこの人を頼りたくない気持ちはあるが、背に腹はかえられない。お礼の気持ちの贈り物でコケるわけにはいかないのだ。 「あの…望月さん。」 「んー?これ買ってこうかな今日疲れたからなー。」 「桜井さんって甘いもの好きなんですか?」 「んー…嫌いじゃないってレベルじゃん?あいつ好みおっさんだからなぁ。秀一くんも食う?買ったげようか?」 「いやいいです。」 お菓子はいいから情報をくれ。 なぁんだと軽い調子で呟きながらカードでフィナンシェを購入する望月を必死の形相で睨みつける。フィナンシェ一つに数百円、それも軽々しくポンと買う望月の財布事情が気になる秀一だった。 ピアニストって儲かるんだろうか。

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