42 / 163
第41話
デパ地下を徘徊する秀一に冷たい視線を送っていた若い女性店員も、イケメン望月が現れてからはすっかり目がハートである。笑顔でフィナンシェを受け取る望月の手を店員がわざと触ったのを、秀一は見逃さなかった。
それに気付いているのかいないのか、それともいつものことで気にしていないのか、望月は涼しい顔で口を開いた。
「奏真はどっちかってーと甘いもんより煎餅じゃね?あとはほら、ビールのアテになりそうなもんとか。」
「ビールのアテ…」
枝豆とか、唐揚げとか。
秀一はビールより断然カクテルやワインを好む為に、ビールのアテと言われても王道しか思いつかない。こんなデパ地下で買える良いビールのアテなんてあるんだろうか。
ともあれ収穫には違いない。
今回はアドバイス通り煎餅やおかきを贈り、次の機会に美味い唐揚げを持って行くか。そしてあわよくば一緒に飲んだりできたら素敵だ。その後何かが起こるかもしれない。
秀一は自分のヘタレ具合を棚に上げて脳内だけで盛り上がった。
「あいつコーヒーとビールとカップ麺で生きてっからなぁ。あと枝豆か?」
「マジっすか。」
「ひでぇ堕落っぷりだよな。年考えねーとそろそろビールっ腹になるぞって言ってんだけどなー。」
「いや桜井さんまだ若いでしょ?」
「いやいやいや俺と同期よ?もう29…いやあいつ誕生日まだか、28だよ。」
「にじゅうはち!!」
あんなに綺麗なのに30手前なんて!
勝手なイメージで自分と同じくらいと思っていた秀一は自分のくたびれたスーツとちょっと薄汚れた革靴が目に入り、なんだか悲しくなった。そしてチラリと隣の望月を見ると、桜井のように若く見えるわけではないが相変わらずイケメンで上から下までバシッと決まっている。余計に悲しくなった。
家に帰ったら革靴を磨こう。
一人でキノコを生やしている秀一をジッと見つめ、望月は少し考える素振りを見せてから珍しく静かな声で語り出した。
ともだちにシェアしよう!