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第42話
「あいつ1人だとほんと適当だからさー。俺としてはそろそろ腰据えて欲しいんだけど。あのままじゃあいつ早死にしそうだし。どう思う秀一くん。」
「どうって…」
なんでそれを俺に聞く。
返答に困る秀一の頭の中を色んな思いが駆け巡り、胃の中がぐるりと回った。
腰を据えるって、話の流れからして結婚とかそういうことだと思うのだけど。望月は秀一が桜井に仄かな恋心を抱いていることに気付いているはずだ。暗に諦めろと言っているのか、しかしこの前は脈アリだから頑張れと言ってくれたのに。
気が変わったのか事情が変わったのか、揶揄われているだけなのか。
ほんとこの人、よく分からない。
「結婚なんて、誰かが催促するもんでも…」
「まぁそうなんだけどなー。でも30前になってくると段々色んなこと考えてしまうわけよ。わかるかね若人よ。」
「はぁ…」
年そんな変わんねーよ。
とは秀一には言えなかった。
「別に女と籍入れて欲しいわけじゃないのよ。ただそろそろ人生のパートナーが必要なんじゃねーかなと思うわけ。特に奏真みたいなタイプはさ。」
ふう、と一つ溜息をついた望月はスマホを一瞬確認して、秀一に向き直る。真っ黒な力強い瞳に見つめられると、金縛りにでもあったように動けなくなった。
「俺じゃあいつのストッパーは務まんないからさ。どっかにいい相手転がってないかなーって思ってたんだよね。」
だから頑張ってよ。
と、笑顔で秀一の肩を叩き、呆然とする秀一を他所に望月は飄々と手を振ってさっさと帰っていった。自分用に買ったはずのフィナンシェを握らせて。
「…タラシ…」
手の中に残ったフィナンシェの袋を見つめて溢れた言葉はそれだけ。
秀一は桜井への贈り物もすっかり忘れて、ふわふわとした雲の上を歩くような足取りでデパートを後にした。
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