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第46話
可愛いな、とか。
素敵な人だな、とか。
もっと言えば好きだな、とか。
万人には到底受け入れられないのは百も承知だ。
だからこそ、ゆっくりひっそりこの恋を育もうと思っていたのに。そしていつか桜井も自分を好いてくれたらと淡い期待を抱いていただけなのに。
感情に任せて酔った相手を急に抱き締めるなんて。
「…最低だ俺…」
カラン、とグラスの中の氷が薄暗い店内に虚しく響く。
大好きなキールもなんだか味気ないし、美しいスカイダイビングなんてものを頼んで見てもちっとも癒されない。秀一はため息を一つついてアーモンドを口に放り込んだ。
「シュウちゃんちょっと飲みすぎじゃない?もうやめておいたら?」
「今日はヤケ酒なんでいいんです。」
「まぁヤケ酒したいのもわかるけど…」
嫌われても仕方ないことをしてしまった、と簡単に事の顛末を語ったきりそれ以上は深く語ろうとしない秀一に、ママはそれ以上追求してこなかった。
あの日からもう2週間が過ぎた。季節は完全に梅雨に入り、鬱陶しい湿気と日々乱高下する外気温にうんざりしながら秀一は毎日残業に明け暮れた。
あれからTräumereiには行っていない。返しそびれていたタオルは閉店後の店のドアノブにメモをつけて掛けておいた。
ありがとうございましたと、すみませんでした。たったそれだけのメモ。
「いっそ告白しちゃえばよかったのに。」
空席を二つ挟んで右手に座った男が声をかけてくる。ゲイバーだからか、こうして一人で飲んでいると声をかけられることは珍しくない。秀一は視線も寄越さずに再びグラスを仰いだ。
「告って玉砕して完膚無きまで嫌われた方が良かったんじゃない?嫌われたかもってウジウジするより。」
「後ろからいきなり抱き締められたらただただ恐怖ですよ。嫌われてますよ。」
「嫌いって言われたの?気持ち悪いとか。」
「言われてないけど…」
きっと桜井は、言わないだろう。
秀一は客だし、彼は優しいから。
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