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第54話

朝食の時間というのは人それぞれだ。結局混み合うこともないが絶えることもなくランチタイムに突入した。 終始忙しく動き回っていた桜井が時々飲み物のおかわりを聞いてくれたり水を足してくれただけでも、気にかけてくれていることがわかって嬉しい。嬉しいが若干暇なのは事実。満タンで出掛けてきたスマホの充電は既に三分の一を切った。 次からは何か暇潰しを持って来ようと心に決めた時、スッと目の前にメニュー表が現れた。 「腹減ってない?」 「あ、ありがと…てか俺居座っててごめん、平気?」 「時間が平気ならずっといてもいいよ。並ぶなんてことほぼないから大丈夫。」 「時間は平気。今日はここに来る以外予定ないから。」 ちょっとストーカーみたいで引かれるかもと思いつつ正直に告げると、桜井は一瞬瞠目してから、空のトレイを胸に抱えてニッと不敵に微笑んだ。 「ならずっといなよ。」 ならずっといなよ、だって!!! 明らかに気のせいだが秀一の耳にその言葉はステレオタイプのオーディオが最大音量で再生されたように聞こえた。ガツンと脳に叩きつけられた魅惑の言葉はこれまた気のせいだが語尾にハートマーク付きだ。 可愛い恋人にそんな風に言われたら、予定があったとしてもずっといるしかない。 「うん、ずっといる…」 デレッと鼻の下が伸びたことに自分で気付いてしまった秀一だった。 満足そうに微笑んだ─ように秀一には見えた─桜井は別の客の元へ向かう。 そういえば、どの客も長居だ。 恐らく、常連客がほとんどなのだろう。ずっと前からあるカフェのようだし、秀一以外の客は皆50を超えているように見えた。 地元の常連客に愛されて長年続くカフェって、なんか素敵だ。 秀一はにこやかに客と談笑する桜井の姿を少しの間眺めて、ランチメニューに目を落とす。 7時のオープン直後に厚切りトーストのモーニングセットを食べたきりだ。健康な20代男性の秀一は当たり前に腹が減っている。 美味しそうな写真に目移りしながら、注文を取りに再び桜井が声をかけてくれるのを待った。

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