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第55話

ふわふわと立ち上る湯気に乗せられて香るこんがり焼けたチーズの香り。素直な腹の虫による催促に、秀一は焼き立てのグラタンにスプーンを入れた。 「美味っ…」 「そう?よかった。」 以前望月がここでグラタンを頼んだ時、美味しそうだったのを思い出した秀一は迷わずグラタンを注文した。ハフハフと火傷しないように注意しながら食べ進めていくと、桜井は水を注いでくれる。もう今日何杯目の水が既にわからない。 そこにあるから何となく飲んでしまうのだが、正直トイレもかなり近くなっていた。 「スマホの充電とか大丈夫か?ごめん暇だよな…」 「いや、いやいやいや!桜井さん仕事中だし!普通に!大丈夫大丈夫!スマホの充電はないけど!」 「俺遠出しないからモバイルバッテリーとか持ってないんだよなー…」 「モバイルバッテリーは持ってた方がいいよ…災害用に…」 「え、そうなん?買っとこ。」 ケロッと軽い調子で生活能力の無さを露呈した桜井に、ちょっと心配になる秀一だった。昨今の度重なる災害のニュースの度に防災グッズを見直す心配性である。もしもの時は何とかして駆けつけなければと誓った。 「ずっといればなんて言ったけど無理しなくていいからな。混みはしないけど客足絶えることもあんまりないから…」 「あ…うん。ありがと。」 ちょっとだけ、冷える心。 ずっといればいいなんてやっぱり社交辞令で、本当はこんなに居座られたら迷惑だったのかもしれない。付き合っているとはいえ、それこそ付き合い始めだ。気も使うだろうし、押しかけられたみたいで気持ち悪いかも。 元来ネガティヴ気味な秀一は一度ドツボにハマると長い。沈んだ気分を悟られないように、秀一はへらりと笑った。 「じゃあ…食べたら帰ろうかな。」 その時の桜井の顔が、ちょっとホッとしたような表情に見えたのは気のせいだと思いたい。 少しだけ冷めて食べやすくなったグラタンはハイペースで無くなっていった。ちょっと落ち込んだ気分でも十分に美味しかった。 昼過ぎになり、店内はまた賑わい始めている。残った水を飲み干し帰り支度を始めると、桜井は空になった皿を下げる代わりにスッと一枚のメモを置いて行った。

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