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第60話

普段は無機質なパソコンの唸り声やキーボードを叩く音ばかりが響くオフィスも、昼休みになると賑わいを見せる。秀一も大きく伸びをして、凝り固まった肩を回して呻き声を上げた。 外した腕時計を嵌めて、そのまま習慣でスマホをチェック。 最近は桜井からのLINEが入っていることが多いが、今日はまだ一通も来ていない。朝送ったスコーンのお礼のメッセージにも既読がつかない様子から察するに、店が定休日だからまだ寝ているのだろう。昨日かなり酔っていたようだし、もしかしたら二日酔いで死んでいるかも。 カフェの店員としてはいつも清潔感漂う綺麗なお兄さんなのに、一歩外に出ると結構だらしないのがちょっと可愛いというかなんというか。あんまりその姿を知っている人もいないのだろうなと思うと嬉しくて、秀一は一人でニヤニヤしながら『二日酔いしてない?』と送信した。 きっとすぐには返信が来ないだろうとスマホをスーツのポケットにしまったのだが、空腹に喘ぐ腹を宥めるため社食に向かおうと席を立った時、しまったばかりのスマホが震えた。 「………ん?」 ロック画面に表示される『桜井 奏真が画像を送信しました』の文字。それに続いて受信したのは、『アーメン』の一文。 ちょっと不自然に思いながら受信した画像を開き、秀一は思わず前のめりになった。 「ちょ、は!?え!?」 写真の半分を占める、ドアップにも十分耐えられる無駄に整った顔。綺麗な長い指が作り出すピースサイン。 その向こうでこんもり盛りがった布団から覗く薄い色の髪は、明らかに桜井のものだ。 「なんで望月さん!?」 恐らく二日酔いで伏せっている桜井と、何故か同じ部屋にいる望月。そして何故か桜井のスマホから勝手に返信してくる望月。 訳がわからず秀一は桜井に通話をかけた。 『はいはーい!奏真でーす!』 「嘘吐くなっつの!望月さんでしょ!」 『む、やるな秀一くん…』 「バレバレだよ!なんで望月さんが桜井さんのスマホ出るの!?」 『そりゃお前、奏真が死んでるから?』 「桜井さんお願いだからロックかけて!」 『こいつのロックナンバー、スマホにした時から1234のままだよ!』 「嘘でしょ!?」 ロックナンバーの意味とは。 些か天然というか危機管理能力に欠けているとは思っていたが、欠けているというかもはや皆無だ。

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