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第61話
『…てかさ、秀一くん。』
桜井にスマホのロックナンバーを別の番号に設定させる良い方法がないかと頭をフル回転させていた秀一に、望月は少し声を低く潜めて、至極真面目なトーンで話しだした。
『ヤらんかったの?』
「ぶっふぁ!!」
平日の真昼間の電話には相応しくない内容を。
「ヤ、は!?ちょ、何言ってんすか!!」
『だって奏真飲ませたらもう一発でしょ!下戸に近いじゃんこいつ。そのくせグイグイ飲むアホだし。』
「いや確かに弱いのにやたら飲んでましたけど!酔っ払い相手にダメでしょ!」
『そう?飲めないくせに飲んじゃうコイツが悪くない?』
「あんたサイテーだな!!」
昼休みとはいえ社内であることを忘れて大声を出した秀一に、数人が怪訝そうに振り返る。
秀一はハッとしてペコペコと周りに会釈をして、逃げるように隣の給湯室に逃げ込み声を潜めて電話を続けた。
「そもそもなんで具合が悪い桜井さんの家にいるんですか!おかしいでしょ!」
『なんでってそりゃ呼ばれたから?』
「呼ばれた!?」
『あ、奏真おそよう。お前さー…』
プツン。
一方的に切られた通話の後には、何も聞こえてこない。画面は既にトークルームに戻っている。
どういうことだろう。
二日酔いで伏せっている桜井の家になぜ望月がいるのか。呼ばれたってどういうこと?もともと約束ががあったのか用事があったのか、それともまさか桜井が看病して欲しくて呼んだとか。秀一は仕事だし、酔わせた張本人だし、過去に付き合っていたというし、そうだとしてもおかしくない。
モヤッとしながら秀一は腕時計をチラ見した。
まだ昼休みだ。これから午後一で会議がある。その後に一箇所行くところもある。そのまま直帰出来ればいいがまだ午前中の雑務が終わっていないので会社に戻ってきてやる他ないだろう。
『飲ませたらもう一発でしょ!』
なんて言う望月と、体調不良で身動きが取れない桜井が二人きり。
あらぬ妄想が広がっていく。
秀一はサァッと血の気が引いて、給湯室を飛び出し昼食も忘れてパソコンに向かい始めた。
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