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第64話
「えーっと、誰と誰が付き合ってたって?」
「誰って、望月さんと桜井さんでしょ?」
「剛がそう言ったって?」
「言ったよ、望月さんと初めて会った日に。」
そう、確かに言った。
その望月の発言で、桜井がノンケではないことを知って気が大きくなり、色々と暴走したのだから。
桜井は難しい顔をしてぽりぽりと頬をかいている。この期に及んでまだ望月の肩を持つなら、もう立ち去ろうと思ったところだった。
「えーっと…剛がどう思ってるかは知らないけど、少なくとも俺はあいつと付き合ってたと思ってない。」
ちょっと理解に苦しむ発言に、秀一は一瞬頭がショートした。
「………え?どういうこと?」
当然の返しに、桜井は少しバツの悪そうな顔をする。あまり知られたくないのかなかなか口を開かない。
桜井にしては珍しいその煮え切らない態度に秀一が若干苛立って眉根を寄せると、桜井は目敏くそれを察して観念したように大きく深呼吸した。
「…とりあえず入って。あんま外でする話じゃない。」
そう言われて初めて、今まで店先で、大騒ぎしていたことに気が付く。
もう夕暮れとは言えじっとりした梅雨の空気の中興奮したせいか、ワイシャツが肌に張り付いて気持ち悪かった。
桜井は秀一を店内に招き入れると、そのまま奥に入ってエアコンをつけた。
古い建物だがエアコンは新しい。すぐに涼しい風が店内に広がり、不快な湿気があっという間に消えた。
その間に桜井が奥から戻ってくる。手には水が入ったグラスが二つ。秀一は自分がかなり喉が渇いていたことに気付き、受け取るなり飲み干した。
それを見届けた桜井は一口だけ水を飲んで、重い口を開いた。
「……だけ。」
「え?」
「3日間だけ付き合って、どっちが上するかで大喧嘩して別れた。」
まるで懺悔のような小さな小さな告白。秀一はそれをゆっくり脳内で反芻して、飲み込んだ。
どっちが上って、どう考えてもベッド事情だ。男同士だから、ぶつかりがちな問題ではある。至るまでに3日というのはちょっと秀一の感覚では早いのだが、それはこの際置いておいて。
大変、申し訳ないが。
「………くだらねぇ………」
それ以外の言葉が出てこない。
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