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第66話
秀一はこう見えてバリタチだ。
ゲイビデオにお世話になっても興奮するのはネコ役の痴態。逆を考えてみても白けるばかり。自分がゲイだと気付いた高校生の頃、興味本位で尻を弄ってみたら痛いとか以前に気持ち悪くてリバースしそうになった。
良いなと思うのも所謂ネコっぽい可愛い子だったり綺麗な子。
大学生の頃、同じ学部だったウェイトリフティング部に所属するムキムキマッチョの先輩に『お前ゲイだろ?』と押さえ込まれた時は全身蕁麻疹だらけになって泡を吹いて失神したために事なきを得た。
今思い出しても蕁麻疹が出そうだ。
目の前の桜井をジッと見る。
華奢でほっそりしているがしっかり男の体格だ。日本人にしては薄い色の髪の毛が男性特有のちょっと筋張ったうなじにかかっているのが色っぽくてクラクラしそうだ。
いつか舐めたい。いつか。
「…あのさ。」
「んッ!?」
「ぶっ!秀一よく声裏返るよな。」
「桜井さんは毎回笑うよね…」
「それ!」
突然ビシッ!と指を鼻先に突き付けられて、秀一は思わず後ずさった。
「俺昨日の別れ際、次は名前でって言ったじゃん。」
「えっ…覚えてんの?」
「残念ながら記憶は消えないタイプ。」
「それは辛い…」
「本当にな。」
すぐ酔っ払って酩酊してしまうのに記憶だけはしっかりしているなんて。しかしならば飲まなければいいのに飲んでしまうのだから、きっと桜井は酒のエピソードが絶えないに違いない。
昨日の名前の話だって、きっと桜井は覚えていないだろうから酔っ払いの戯言として流そうと思っていた。
だから、なんというか。
「こ、心の準備が…」
「は?」
「心の準備がね!?」
「は?ほら深呼吸深呼吸。頑張れ。すーはー。」
「適当すぎない!?」
「そんなことないって。」
朗らかに笑う桜井のどこかイキイキした目は、秀一があたふたするのを楽しんでいるようにしか見えない。割といい性格である。
しかしその楽しそうな笑顔に弱くて、秀一は言われた通り深呼吸した。吸った息も吐いた息も震えていた。
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