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第69話
秀一が始めて自分の携帯電話を手にしたのは中学に入った時で、それはちょうどスマートフォンが普及し始めた頃だった。
思い返せば、周りの同級生も皆スマホが初ケータイというやつが多くて、ガラケーというものにあまり馴染みがなく社会人になってすぐはメールの打ち辛さに四苦八苦したのを覚えている。ちなみに今でもガラケーのメールは苦手だ。
「剛ってちょっと歳離れた妹いるんだけど。妹がガラケー触ったことないって衝撃受けてた話しててさ。もしかして秀一ってガラケー知らないんじゃね?っていう話になった。」
「知らないことないけど…親とかねーちゃんが使ってたし。」
「お姉さんいるんだ。」
「3人…」
「それはまた…」
奏真くんは一人っ子っぽいよなぁ、と思って尋ねてみると、やはり一人っ子だった。
姉達とはもう盆休みや年末年始といったまとまった休みにしか会わないけれど、幼い頃から今もおもちゃにされるばかりである。それでも一番上の姉は年が離れているせいか第二の母親のような存在で、秀一がゲイだと家族の中で唯一知っている心強い味方だ。
元気かなぁとぼんやり姉の顔を思い浮かべる。元気のない姿などほとんど見たことがないけれど。
「秀一って学ランだった?ブレザー?」
「学ラン。奏真くんは?」
「俺私立だったから妙に目立つブレザーだった。」
「何それ見たい。」
「ぜってー見せない。」
「えー!」
悪戯に笑う顔はなかなかレアだ。
どんな中学生だったんだろう、出来ればそんなころから知り合っていたかったが、きっと同級生だったとしても関わりなどなく下手したら名前も知らずに卒業していたかもしれない。
「中学生の奏真くんかぁ…可愛いだろうなぁ…」
想像するだけでもよだれが出そうなほど可愛いに違いない。変態上等だ。今より幼い顔立ちで身体つきも華奢だろうし、髪型はどうだったんだろう、もしかして短かったかも?
秀一は明後日の方向を見ながら中学生の桜井を想像してニヤける。口から欲望が漏れ出ているとも気付かずに。
「残念ながらクソ生意気で扱い辛い面倒なガキだったよ。」
「えっ!?」
「ピアノで賞取ってくるのをいいことに勉強は完全放棄してたからな。」
しかしまさかそんな変態臭い欲望の的にされているとは気付かず、桜井は苦笑しながら中高時代の散々な定期テスト結果を暴露し始めた。
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