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第76話
ドギマギしながらチラッと重みの根源を覗き見ると、綺麗な丸い頭のてっぺんしか見えない。寝ているのか起きているのかもわからない。と、思ったらにゅっと手が煎餅に伸びたのでしっかり起きているらしかった。
「ね、寝てても、いいよ…!」
「んーん、平気。」
「そ、そうッ?」
「ん〜…」
危うい返事をしながらぽりぽり煎餅を齧っている。視線は画面の中で繰り広げられるクライマックスに向けたまま。
今の今まで気付かなかった煎餅を齧る音が妙に響く。肩に感じる重みと温かみが密着をありありと感じさせて、秀一は心臓が破裂しそうだった。修羅場を歌い上げる歌手の渾身の演技はもはや耳に入らない。煎餅を飾る音とわずかに感じる息遣いに聴覚を持っていかれて、視線はゆっくりと上下する細い肩に釘付けだった。
肩に、手を、回したりしても、いいだろうか。
温くなった缶を無駄に手の中で転がしてもてあそびながら、ズレてもいない眼鏡を直したり手をグッパグッパ握って開いてして欲望を抑える。明らかに挙動不審だ。
よし幕が降りる時にそーっと肩に腕を回して、ちょっといい雰囲気に持っていけたら…そろそろ、付き合って1ヶ月以上経つし、キス、とか、したい、かも。
一語毎に区切られた欲望を携えて、秀一は再びカルメンに視線を戻した。
意識が逸れている間に何がどうなったのかさっぱりわからないがその場に倒れるカルメンと悲痛に泣き叫ぶホセ、まさかカルメンって悲劇だったの?もしかして終わり?今何があったんだ?ああいやそれどころじゃない!
見逃した物語の結末も気になるが、それ以上に肩にもたれてくる桜井が気になる。ゆっくりと降りる幕を見届けて、エンドロールが始まる。秀一はゴクッと生唾を飲み込み、そーっと桜井の肩に腕を回そうとした。
その情けないほど震えた手が桜井の肩に触れるか触れないかの瀬戸際。
「秀一はさぁ。」
「はひッ!?」
突如声を掛けられて、声がひっくり返った。
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