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「あいつッ!ぜってぇーやる気ねぇ!何しに音大来てんだバカヤロー!!」 ダンッ! 望月は居酒屋のちょっと汚れたテーブルに一気に飲み干したジョッキを叩きつけた。 「大学生にもなって平均律もろくに弾けねーわバカにしてんのかってレベルのエチュード弾くわ!挙句レッスンすらろくに来ねー!何しに来てんだ!女漁りか!確かに音大はなぜか可愛い女の子が多い!」 「お前まさか学生に手出してないよな?」 「出してるわけねーだろッ!」 はぁぁぁ、と大きな大きなため息を吐いた望月は、通りかかった店員を呼び止めて2杯目の生ジョッキを頼んだ。 元気よく返事をした店員がその場を去ると、ポケットから煙草を取り出して奏真に視線だけで許可を求める。奏真が灰皿を差し出すことでそれに答えると、望月は「ありがと。」と煙草を一本取り出して咥えた。 望月が酒に弱い奏真を飲みに誘うのは、9割鬱憤が溜まっている時だ。奏真もそれをわかっているからなるべく断ることはしない。 奏真は目の前にある枝豆と止まらない望月の愚痴を肴にグイッとビールを煽った。 「まぁ下手な奴はいるだろ普通に。得てして下手な奴ってのはどんどんやる気もなくなるもんだ。」 「踏ん張れよ…ほんと踏ん張れよ…休み明けの試験どーすんだよ…」 180cmをゆうに超える大きな身体を背凭れに投げ出して項垂れた望月に、奏真は思わず噴き出した。 「…なんか、自分が大学生の頃より悩んでるんじゃん?指導者らしいよ。」 「指導者だもんよ。当時の俺の悩みなんか桜井 奏真というでけぇ壁が越えられないことくらいだったっつーの。」 「ちっさい悩みだなー。」 「けっ!」 わかりやすい悪態をついた望月は丁度運ばれてきたビールを受け取るなりグイグイ煽る。いつもながら気持ちいいほどの飲みっぷりが羨ましい。 大好きなのになかなか一気には飲めないビールをちまちま減らしていく奏真に、望月はまた溜息をついた。 「そっちは最近楽しそうで羨ましいわ…」 「そう?」 「そうだよ。わかりやすく夜更かしするようになりやがって。前は意地でも9時に寝てたのに。」 「だって10時以降なら運が良ければ秀一から返信くるし。つー訳で俺はそろそろ帰りたい。」 「かーーームカつく!そうですね明日は秀一くんが来る日曜日ですもんね!」 これだからリア充は、とかなんとかブツブツ文句を言いながら、望月は残っていたビールを一気に飲み干し、トイレ行ってくると言いながら伝票を掻っ攫う。きっとトイレのついでに会計を済ませるのだろう。やることが一々タラシなのは昔からだ。 奏真はありがたくご馳走になることにして、帰り支度を始めた。

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