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第80話
一度離して、またすぐに唇を合わせる。ドキドキしながらトントンと軽くノックすると、奏真はその唇を薄く開いて秀一を受け入れてくれた。
「…ッ…ん、…」
柔らかい唇を食み、ゆっくりと舌先を絡めると僅かに上がる息と漏れる声が脳みそと下半身に直撃する。バレないようにそーっと薄眼を開けて様子を伺うと、奏真は目を閉じて頬を上気させ、うっとりとキスに浸っているように見えた。
(いける…!!!)
居心地悪そうに身動ぎした奏真がソファに後ろ手をついて身体を支えようとするのに合わせ、そっと体重をかける。嫌がる素振りはない。寧ろ両腕を秀一の首に回して身体を預けてくれる。
(あっ…でもベッドの方がいいかな?最初がソファってどうなのかな?がっつき過ぎでキモいとかウザいとか思われたらどうしようこのままいっちゃっていいもんなのかなどうなのかな!?)
ぐるんぐるん回る思考に、懐かしい声がふっと浮かんだ。
『シュウくんって〜…優しいし顔はまぁそこそこ好きなんだけどなんか残念っていうか〜…デートもありきたりでつまんないし…それにえっと〜…アッチがお粗末なんだよね…僕、夜の生活も大事だと思うんだよね〜…う〜んと、ごめんね?』
アッチがお粗末なんだよね。
数ヶ月聞いていない声が脳裏によぎり木霊する。ついでになんとも残念そうな困ったような微妙な表情も。
「秀一?どうした?」
ぴたりと動きを止めた秀一に奏真が身体を起こして怪訝そうに声をかけてきた。その声が、表情が、別れを突きつけてきたかつての恋人と重なって秀一はいよいよサァッと血の気が引いた。
もし、もしも。
もしも同じことを思われたら、どうしよう。
「……ごめ、俺帰るね。」
「え?」
「また来週来るから!」
呆気に取られた奏真を置いて、秀一は引き攣った笑みを浮かべてその場を後にした。
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