90 / 163
第85話
ダダダダーーーン!
「え!?なに!?何事!?」
朝6時、部屋中に響く運命交響曲に飛び起きた姫井の頭にはぴょこんとアホ毛のような寝癖がついていた。
───
「ね〜こんな朝早くどこ行くの?シュウくんの休みの予定なんて寝溜めでしょ?昨日何時まで起きてたと思ってんの〜眠いよ〜。」
「うるさいなもう!俺は今日例え台風でも大雪でも行かなきゃなんだよ!」
「だからどこに?僕も行っていい?」
「いいわけないでしょ!!」
朝から一体何度目かの同じやりとりに段々と語気が荒くなりながら、秀一はガチャンと必要以上の音を立てて部屋の鍵を閉めた。背後ではなんとか寝癖を直した姫井が大あくびしている。
ちょっと付き合ってよ、のちょっととはどのくらいのことを指していたのか。あの後も姫井は買い込んだ酒で呑んだくれて、結局二人して崩れ落ちるように雑魚寝したのだが、それが一体何時だったのか定かではない。若干胃がもたれているのは姫井が買ってきたメンチカツを深夜につまんだせいだろう。いやもしかしたらたっぷり聞かされた姫井のマシンガントークに心が疲れてしまったのかもしれない。ちょっと気不味い雰囲気とかもうどうでもいいので早く奏真に癒されたい。
「ね〜シュウくん〜〜〜。」
「だあああもう!ついてこないでってば!」
「行くとこないんだって〜…昨日の僕の話聞いてたでしょ?」
「そっちこそ昨日の俺の話聞いてた!?」
「え〜だって嘘でしょ?」
「嘘じゃないよ失礼なッ!」
早朝に似つかわしくない騒ぎ方をする二人を、犬の散歩に通りかかった老人がジロジロと怪訝そうに見ていく。ちょっと居心地が悪くて、秀一はグッと堪えて叫ばなくてもいいように姫井と少しだけ距離を詰めた。
「とにかく!ヒメとやり直す気はこれっぽっちもないし新しい恋人がいるのも本当だから、これ以上は泊めてあげられないからね!」
昨夜と全く同じ話を繰り返すと、姫井は納得がいかないと言ったように頬を膨らませた。
ともだちにシェアしよう!