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第91話

「もおおお!いい加減帰れって!本当に!」 「シュウくんこそいい加減折れろって!なんなら今夜サービスするよ!」 「いらねっつのこのビッチ!!」 「ひどぉい!!シュウくんいつの間に僕にそんな口きけるようになったの!?」 店先で騒ぐなと店主自ら釘を刺された二人はすごすごと裏路地から消え、人通りも多い駅前で大喧嘩すること早1時間。時刻は8時を過ぎて少しずつ気温も上昇し始め、秀一も姫井も汗だくになりながら、平行線を辿る不毛な言い争いを続けていた。 「ていうか!マジで!マジで奏真くんブチ切れてたじゃん!空気読めよ!あのタイミングで時計の話するかよ!」 「本当のことを言っただけじゃん!僕に未練があるから時計使ってるんじゃないの!?」 「ちげーよ!!折角良い時計だから使いたかっただけだよ!見栄だよ!」 「よれよれTシャツ着てオメガの時計とか残念過ぎて…」 「じゃあ贈ってくるなよ…!!」 疲れる。非常に疲れる。 確かに姫井のことが好きだったし可愛いと思っていたのだが、可愛くて綺麗で優しくて料理上手で癒しの旋律を奏でる奏真の存在に慣れてしまうと姫井こそ可愛いだけの残念男に感じてならない。 早くこいつをなんとかして奏真と仲直りをして、あわよくば今夜ベッドインに再チャレンジしたいのに。 ちゃんと納得させて追い出さないとまた家の前で待ち構えていそうだし、そんなことになったらまた泊める羽目になるのは目に見えている。もう完全に姫井のペースだ、それはマズイ。 かと言って口下手な秀一がいくら頑張ったところでこの姫井のマシンガンどころかガトリングガンのような勢いに敵うはずがなく、ほとほと嫌気が刺してきたころ。 「あっれ、秀一くんまだこんなとこにいたの?帰ったのかと思ったー。」 やる気のなさそうなゆるい声。ムカつくのはイケボというところ。 先ほどの寝起きそのままのラフな格好から一転、いつものビシッと決まったオールバックにバリッとしたシャツと細身のパンツ、ジャケットは流石に腕に持っているが真夏には少々暑苦しい出で立ちの望月だった。

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