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第97話
夕立で濡れ鼠になった秀一は奏真に風呂を借りた。秀一にめいっぱい抱きしめられたせいで奏真も無駄にびしょ濡れになっていたので、まさか一緒に風呂!?なんて淡い期待を抱いたものの。
「あ、すまん狭くて男2人は無理だわ。」
と冷静にバッサリ切られてしまい、すごすごと一人で入った風呂は敷地に対してたしかに小さく、あ、建てる時拘らなかったんだなと一目でわかった。
───
結局別々に風呂に入ったせいで盛り上がるどころかまるで友達の家に泊まりに来たような雰囲気だったのが大変残念である。秀一は聞こえてくるシャワーの音を聞きながら悶々と頭を抱えていた。
出来れば、再チャレンジしたいんだけど。なんかそういう雰囲気じゃない。これはきっといつも通り奏真くんが風呂から出てきたらオペラか何かを観ながらビールだ。姫井という山場を超えたにもかかわらず全く進展していない。
どうしたものかと悩んでいると、ガチャンと浴室が開く音がした。
「おまたせー。ビール飲む?」
「あ、うん……ッ!」
奏真がいつものように夏らしい格好でホカホカと全身から湯気を立てて出てくるのを、いつものように迎えようとして、なのにそのいつもの格好がいつもの何倍も煽情的に見えて。
秀一は思わずバッと視線を逸らした。
「秀一?」
「あ、…いや…ごめんなんでも…」
なくはない、けど。
顔に熱が集まるのがわかる。
明らかに不自然な態度に奏真がまた傷ついてしまわないかと恐る恐る振り返ると、ビール缶片手にキョトンとしていた奏真は、秀一の真っ赤な顔を見て何かを察したようだった。
裸足のままペタペタと近付いてきた奏真は、通りがけのダイニングテーブルにビール缶を置く。コン、と、中身がまだたっぷり入った少し低い音が響いた。
奏真はそのまま秀一が座るソファに乗り上げた。
そして、ごく自然な流れで唇が重なった。
ちゅ、と軽いリップ音が静かな部屋に響く。ゆっくりと瞼を持ち上げると、奏真の薄い色の瞳の中に自分が写っているのがわかった。
その目尻をそっと撫でると、滑らかな感触にドキドキする。段々と高揚する気持ちと比例するように顔に集まる熱を悟られないようにギュッと奏真を抱きしめると、ふわっとシャンプーの香りが鼻腔をくすぐった。
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