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第112話
「大袈裟だなー。」
「そんなことないよ、朝奏真くんに起こしてもらって美味しいカフェオレと朝ごはん…最高オブ最高ってこのことでしょ!ああ、俺もうここに住みたい…」
「住めば?」
「うん…うん!?」
あまりにさらりと発言されて思わず頷いてしまった秀一は慌てて奏真を見た。
奏真は秀一が苦手な黒々としたブラックコーヒーを煽っている。様になるというか優雅というか、あまりに自然体で、なあんだ冗談かとちょっぴり残念に思いながらへらりと笑った。
「また奏真くん俺が面白い反応すると思ってそんな冗談…」
「駅から歩いて5分弱、スーパー2分、建物古いけど家賃なし。エアコン含め家具家電完備風呂トイレ別、ベッドもじーさんので良ければあるし。あ、あと俺という名の宅配ボックスがある。」
「最高すぎる物件だ…」
そんな物件、何件不動産屋を巡っても出会えるわけない。そもそも家賃なしというのがありえない。あまりの条件に秀一は本気で心揺らぎ項垂れた。
そんなセールスされたら本当に住みたくなってしまうじゃないか、と恨みがましく見つめると、奏真はそんな秀一の心境を知ってか知らずかニッと不敵に微笑んだ。
「それに結婚するんだろ?」
「えっ…いやその、あれは…あの外し方は流石に俺も忘れたい過去…」
「まぁ結婚するしかないよなー、子どもまでできちゃったしなー。」
「こども!?!?」
何言ってるの奏真くん、と言葉にならず口だけがパクパク動いている秀一に、奏真は優雅にコーヒーを啜りながら一点を真っ直ぐに指差した。その先には立派なグランドピアノ、の前に腰掛けるバラの花束を抱えた大きなくま。
秀一が昨日奏真に渡したプロポーズのためのくまだ。
「アレ俺の子になったんだ…」
「秀一の秀に奏真の真で秀真でどう?」
「しかもそれっぽい名前付けてきた…」
「逆がいいかな?奏真の奏に秀一の一で奏一。どっちがいい?」
たまにぶっ飛んだこと言うよな奏真くん、と遠い目をしていると、テーブルに置いてあった秀一のスマホが震える。着信らしく、長く震えるそれは『ヒメ』と表示されていて、秀一がどうにかするより前に奏真の奏真の綺麗な指がスピーカーモードで着信を取った。
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