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最終話
『ねぇ!ちょっともう無理!望月さん無理!!身がもたない!!シュウくんお願いやっぱ今日からまた泊めて〜〜〜!!』
「無理。」
『えっ!?誰!?ちょっ…』
明らかに混乱している姫井を他所に無情にも奏真は通話をぶった切った。その表情が若干得意気なのは何故だろう、と苦笑いしていると、今度は奏真のスマホが着信を知らせる。表示される名前は、予想通りというかなんというか『剛』だ。
一瞬二人は顔を見合わせ、奏真はこちらもスピーカーモードで受けた。
「もしもし?」
『あ〜おはよう奏真。あのさ急で悪いんだけど今からそっち行っていい?お願いがあるんだけど。』
「またか…」
『今度は奏真にも利点はあると思うんだよね〜。」
電話越しにもわかるその愉しげな声に、秀一と奏真は再び顔を見合わせた。
『いやさ、秀一くんの元カレのあの子、ちょっとおいたがすぎるかな〜って。お灸を据えてやろうかと思ってさ。』
極悪人のような顔でにたりと笑う望月の顔が見えた気がした。飄々としていてあまり本気で怒るようなことがなさそうな望月にそこまで言わせるとは、一体何をしたんだヒメ、と秀一は頬を引攣らせる。それは奏真も同じだったようで、了解の返事をした奏真が通話を切ると、二人は同時に小さく噴き出した。
「あの二人上手くいくのかな?」
「お似合いじゃん?ヤリチンとビッチ。」
「…奏真くんヒメのこと嫌い?」
「嫌い。」
「ふふっ…」
「あ、笑ったな?昔の男なんて気に入る訳ないって秀一が言ったんだぞ。」
「ごめんごめん、そうだね。」
むくれてしまった奏真に思わずまた笑ってしまって、こつんと頭を小突かれた。
日が高くなり始め、小鳥の囀りはセミの大合唱に負けて聞こえなくなっていた。トーストを齧る音、食器が立てる金属がぶつかる音。秀一と奏真の小さな笑い声。
店の奥に佇むグランドピアノに向かう大きなくまが、陽の光を浴びてきらりと光った。
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