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散髪攻防戦/6

カフェスペースは、家であり仕事場だ。 すること自体は決して嫌ではないが、ここでするのは、なんというか気分的に明日の仕事に支障が出そうで躊躇われる。レジに立つ度にあらぬことを思い出したりしたら非常に困る。 せめて2階で、と伝えようとした矢先に秀一の手が下着の中に潜り込んできて、ビクッと身体を跳ねさせた奏真は慌てて唇を噛んだ。 「しゅう、ッ…ちょ、待っ…!」 「奏真くん、…ねぇ奏真くんなんで髪切ったの?」 「なんで、って、」 「やっぱり………」 ぴたり。 好き勝手にうなじや耳のあたりを這っていた左手も、中心をやわやわと愛撫していた右手も、止まった。 「…ウッ…ヒック、やっぱりウザかった!?」 「……………は?」 「俺がいっつも髪の毛いじるから、ウザかった!?」 ガバッと身体の向きを反転させられて、奏真は真正面から秀一の顔を見た。 眼鏡の奥で真っ赤になった瞳からボロボロ涙が溢れてくる。めいっぱい顔を歪めてズズーーーッと鼻をすする音は、正直汚い。奏真は昂ぶった身体から熱がスーッと抜けていくのを感じた。 「いや、ただ単に邪魔で鬱陶しかったんだけど…」 「俺が!?」 「ちげーよ髪の毛がだよ。」 「し、縛ればいいじゃん…!」 「洗うのもドライヤーもダルいし。」 「おれ、俺がやったげるよ!!」 「毎日は無理だろが…」 「会社燃えろおおお!!!」 「…うざ…」 「え…やっぱ俺がウザかった!?」 「あぁもう!この酔っ払い!!」 ズビズビ汚い泣き方をする大変面倒な酔っ払いをなんとか宥めて二階に連れていき、なんとか促して風呂に入れ、なんとか唆して布団に放り込んだら10秒で寝てしまい、奏真はどっと疲れてその場に崩れ落ちた。 幸せそうな顔で寝ている秀一にデコピンの一つでもかましてやろうとして、直前でその手を引っ込めて代わりにキスした奏真は自分のベッドに潜り込んだ。 ─── 「ごめ…ごめんなさい…」 朝からずーんと重い空気を背負っているのは、他でもない秀一だ。 奏真はニコリと余所行きの笑顔を貼り付けて秀一の前に一つのカップを置いた。芳醇な香りがたまらないマンデリンは、自他共に認めるカフェイン中毒の奏真が一番好きな豆だ。 「はいこれ、仕入れたばかりで美味いよ。」 「あ、ありが………」 「ん?」 「奏真くん、これ…ブラックだよね…」 「うん、ブラックが一番美味い。」 「あの…」 「なに?いらない?」 「いえ、いただきます…」 昨夜飲み会に参加した胃袋にブラックコーヒー。しかも元々コーヒーは飲めない秀一にブラックコーヒー。 これくらいの嫌がらせは許して欲しい奏真は、次はもう少し長さを残して散髪しようと心に誓った。

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