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散髪攻防戦/5

──なにか、武器になるもの。 奏真は咄嗟にキッチンの洗い桶に置いてある使い慣れた包丁を手にした。 ──いや包丁はまずい、うっかり刺したりしたら事だ。 ぐるりと店内を見回す。過剰防衛にならない程度で、相手を威嚇出来るもの。キッチン鋏。祖父から受け継いだメニューの分厚いレシピ本。鍋の蓋、は、何かのゲームの初期装備の盾だ。武器じゃない。 奏真は数秒考えて、フライパンを握りしめた。 振るうつもりはない。威嚇できればそれでいい。奏真は深呼吸して、ゆらゆらと怪しい人影をキッと睨みつけ意を決して静かに鍵を開けた。 カチリと鍵が小さな音を立てる。ドアノブを捻りほんの少しだけドアを開けると、なんとなくそんな気はしていたが、やはりというかなんというかそこにいたのは秀一だった。 「あ、…ごめん遅くに…電気、ついてるなーって思ってさ。」 見慣れないスーツに身を包み、少し酔っているのか頬を上気させながら秀一はへらりと微笑んだ。 奏真はホッと全身の力が抜けて、握りしめたフライパンを秀一にバレないようにこっそり背中に隠した。 「…入れば。」 あ、声が硬い。 ここ数日機嫌が悪い自覚はもちろんあったが、それしにたって自分でもちょっと引く程冷たい応対に秀一は僅かに躊躇いを見せたものの、奏真が店内に戻ると後ろから急に強く抱きしめられた。 タバコの匂いと強いアルコールの匂いにクラッとする。奏真は思わず眉を顰めて身体を拘束する腕を払おうと手を掛けた。 「秀い…ッ!?」 しかしそれは、髪を切ったことで剥き出しになったうなじをべろりと舐めた秀一によって遮られた。 「ッ、ちょ、やめ…」 「奏真くん…」 「んっ…」 耳にかかるかかからないか程度には残っているサイドの髪をさらりと梳きながら耳を愛撫していき、空いている手はシャツの中にするりと入り込んでくる。素面の秀一からは考えられない手際だ。言うほどまだ重ねたわけではないが。 元々弱い耳やうなじを執拗に指で舌で愛撫されるとあっという間に身体は熱を持ってしまって、奏真は咄嗟にそこにあったレジに手をついた。

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