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Liebesträume/2
じっと見守っていると、奏真は天を仰いだり頬杖をついて考え込んだり、とにかくその6桁の数字に悩んでいるようだった。時折唸るような声を上げ、段々と眉間にシワが寄ってくる。
「…4桁でもいいんだよ?」
「あれ?そうなん?」
「設定できるはず。貸して。」
素直にスマホを渡してきた奏真が秀一の手元を覗き込んでくる。迷いなくタップとスワイプを繰り返し、あっという間にロックナンバーを4桁に戻してみせた秀一に、奏真はおお、と感嘆の声を上げた。
「すげえ、秀一カッコいい。」
「えっ…あ、へへへ…」
「ん〜でも4桁でも悩むな、何にしようかな。」
不意打ちの賞賛にデレっと鼻の下を伸ばし舞い上がったのは秀一だけで、奏真は再び顎に手を当てて新しいロックナンバーを考え始めた。
これくらい、それこそスマホを使って調べれば誰でもすぐできるんだけどね、とは言わないでおくことにした。恋人にカッコいいと思われていたいのは当然の心である。
カッコいいだって、奏真くんがカッコいいだって、と心の中で呪文のように繰り返していると、口の端が上がっていくのを堪え切れない。ニヤニヤと不審な笑みをうかべる秀一に、奏真は突如声を上げた。
「決めた!秀一、誕生日いつ?」
「え…4月4日…」
「4月4日!?」
「う、うん。」
「この前じゃん!言えよ!」
抗議の声を上げながらスマホを少し触って、奏真はポイとそれを投げ捨てた。奏真は何事もきちんとしていそうな整った容姿に反して物の扱いがぞんざいで、もうちょっと大事にしてあげて、とよく思う。
というか今絶対俺の誕生日をロックナンバーにしたよね?と嬉しいような心配なような複雑な思いを抱いたが、グイと前のめりに迫ってきた奏真の綺麗な顔を眼前にしてそんなことはどうでも良くなった。ああ今日も美人だ。
「なんか欲しいもんある?」
「えっ…」
「って急に言われても困るよな、うん…ん〜なんか考える。」
勝手に自己完結した奏真はパッと離れて行って、腕を組んで再び考え込み始める。トントンと一定のリズムを刻む奏真の長くて綺麗な指先を見ながら、秀一の胸の奥底に撒かれた種が芽吹いた。
言ってもいいかな、いややめておこうかな。
キョロキョロと彷徨う視線に含まれるのは明らかに期待。チラッと奏真を見てはサッと逸らし、またチラッと奏真を見る。そんな不審な視線が気付かれないはずもなかった。
「なに?なんかあった?」
「えっ!あ、いやその、えーっと!」
「あんま高いもんは買えないけど…なに、言ってみ?」
奏真は秀一の大好きな柔らかい微笑みを浮かべながらそれを促してくれる。秀一はこれにめっぽう弱い。
今日も今日とてあっという間に陥落して、秀一はぽりぽりと頬をかきながら迷いがちに口を開いた。
「あの…あのね、えーっと、ピアノ弾いてほしいなーって…」
「ピアノ?いつも聴いてんじゃん。」
「あ、うん、そうなんだけど…弾いてほしい曲が、あって…」
しどろもどろにやっとの思いで告げ、チラリと期待たっぷりに奏真を見る。きっと笑顔で「いいよ、なに?」とか聞いてくれて、なんなら今この場でサラッと──
「え………」
物凄く、嫌そうな顔をされた。
「え、え!?ごめん嫌!?」
「嫌っていうか…いや、嫌かも…」
「ええええええ!?」
「だってこういう時素人って何も知らずに超難度の曲を持ってきたりするから…」
「あ、いやえっと確かに難易度は全く分からない…けど…」
「んで日夜それを血反吐 吐きながら練習 ってやっと披露するとは露知らずこれくらい簡単に弾けるでしょとか言うから…」
「うっ!」
秀一は黙るしかなかった。
お願いしようとした曲の難易度は知らないが確かに「奏真くんならサラッと簡単に弾いてくれるはず」と思っていたからだ。ぐうの音も出ない。
落胆と反省でしょんぼりしてしまった秀一に、奏真は浅い溜息を一つ吐いた。
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