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Premier Ensemble/5

ぽーん、と音が響き渡る。 結構な抵抗を感じながら下まで押し込んだ鍵盤が鳴らした音は、聴き慣れた奏真の華やかで輝かしい音とは似ても似つかないどこかくぐもったような透明度の低い音だったが、秀一は妙な感動を覚えて全身が震えた。 「お、おおお…鳴った…」 「ぶふっ!だから簡単に鳴るんだってこいつは。」 「硬い…」 「硬い?」 「これ、鍵盤下まで行くまでが…」 「あー、重いね。うん俺鍵盤は重い方が好きだから。」 鍵盤を下まで押し込むのが大変だ。軽々弾いているように見えるのに、こんなに硬くて、いやどういうわけか重いと表現するらしいが、とにかく音一つ鳴らすのがこんなに大変なのにあんなスピードであんな音量が出るなんて。思っていた以上の重労働だ。 いやそれより、そんなことより、近い。手が重なっている。ちょっと振り返って首を伸ばしたらキスできちゃう。いやいつももっと凄い事をしているのだけど、この微妙な距離感は堪らなくドキドキする。いつもながらなんか良い匂いがするし、秀一の大好きなサラサラの髪の毛が耳をくすぐっていて、シャンプーの香りがなんだかエッチだ。なんでだ。 チラッと奏真の顔を覗き見れば彼は至極大真面目に鍵盤の上で固まっている秀一の手とオタマジャクシの巣を見ていて、秀一の邪な想いには全く気が付いていない様子。長い睫毛が滑らかな頬に影を落としていて、なんというか、改めて。 (美男子…!!!) 初対面と同じ感想を抱くのだった。 次から次へと溢れてくる感想を処理しきれず色んな感動に打ち震えている秀一の手を取った奏真は、真ん中から少しだけ向かって右側にその手を置いた。 「はい、親指ここね。」 「ええええちょ、ちょっと待って!」 「楽譜読める?」 「よ、読めない…」 「オッケー、じゃあ耳で覚えよう。」 「簡単に言わないでくれる!?」 「左は…」 「無理だからね!?」 秀一の隣に中腰になった奏真は、今しがた聴かせてくれたモーツァルトのソナタの旋律を簡略化して、ほんのワンフレーズだけお手本を聴かせてくれた。秀一が恐る恐るそれに倣ってたどたどしい旋律を奏でる。 「おお…おおおお…」 お手本には勿論遠く及ばないが、何度か繰り返すとそれはなんとかその旋律は形になり、秀一は感動で身体の芯がじんと熱くなるのを感じた。

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