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君の旋律/2
「剛といえばさ。」
手書きの楽譜を繁々と興味深く眺めていた秀一を不満そうに見ていた奏真が、秀一の興味をわざと楽譜から逸らすように話題を変えた。
「秀一の元カレいるじゃん、くっそ失礼な奴。」
「く…!?奏真くんからのまさかの暴言に俺驚きを隠せない…」
「今あの二人剛のマンションで一緒に暮らしてるらしいよ。知ってた?」
「嘘おおおお!?」
綺麗で優しくて穏やかで天使のような奏真の口から飛び出した暴言に驚いたのも束の間、秀一はそれ以上の衝撃に「くそ失礼な奴」発言をコロッと忘れた。
秀一と別れた後新しい恋人と同棲して追い出されて、今度は望月と同棲。一体どこまでビッチなんだ。魔性にも程がある。まんまとそれにやられたのかと思うと自分のチョロさに秀一はちょっと落ち込んだのだが、百戦錬磨っぽい望月もやられたのかと思うと自分ごときやられても仕方がないような気も、しなくもない。
どう反応していいのかわからず秀一は引き攣った笑みを浮かべ、奏真はそんな秀一からごく自然にするりと楽譜を取り上げた。
「いや意外だよなー。さっきも言ったけど剛ってちょっと潔癖なところあるからさ、いつだったか絶対結婚なんかしたくないって言ってたし。」
「あんなにチャラいのに…」
「恋愛と結婚は別、てことだろ。まぁ気持ちはわかる、俺だって今まで何人か付き合ったけど合鍵渡したのなんか秀一が初めてだし。ここ数年はもう一人に慣れちゃって今更友人関係築くとか、ましてや恋愛なんて面倒くさくて到底無理だなとか思ってたし。」
「えっ…」
「いや人生わかんねーよなぁ。今度根掘り葉掘り聞いてやろうと思って。」
ふふふ、とちょっと悪どい笑みを浮かべた奏真はとても楽しそうだが、秀一はそれよりも奏真の発言を反芻することに忙しかった。
合鍵渡したのは自分だけ、とか。今更恋愛とか面倒くさくて無理だと思ってた、とか。それってつまり裏を返せば、すごい特別だよと伝えてくれているようなもの。しかも、本人はそんな大告白をしたつもりもなさそうだ。
ごく自然にこぼれた奏真の本音に愛しさが堪え切れなくなった秀一は、ピアノ椅子に座ったままの楽しそうな背中を思わずぎゅっと抱きしめた。
「うわ、え、なに?どうした?」
「いや、うん、ごめん…好き…」
「え?どうした突然。」
「奏真くん、その曲出来たら聴かせてね。」
「え…いやそろそろ飽きてきたからやめようかなと思って…」
「えっ…………………」
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