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Only one/3

元々、秀一のところに転がり込むつもりだった。絶対に断らないだろうと踏んでいたのだ。押しに弱くて人が良くて奥手で、ちょっと色目を使えばすぐ陥落しちゃうような奴だから、絶対に断らないだろうし、自分がいなきゃダメだろうと思っていた。きっと渋い顔を繕いつつも抑えきれないニヤけ面を晒しながら「しょうがないなヒメは」なんて言ってそのまま元サヤに納まることができると思っていた。 それが、まさか、あんな綺麗な人を捕まえているなんて。 一瞬手を止めて、ジワリと浮かんだ涙を誤魔化すようにビールを一気に飲み干した姫井をじっと見つめていた望月が、徐に口を開いた。 「…好きだったんじゃねぇの?秀一くんのこと。」 「………え…」 「んで、秀一くんにまだ好かれてる絶対の自信があったんじゃね?」 ふふん、と不敵な笑みを浮かべた望月は呆気にとられた姫井を見て図星を確信したのか、立ち上がって冷蔵庫からもう一本ビールを取り出して姫井に差し出した。慰めのつもりなのだと悟って、姫井はカッと頭に血が上り、反論すべく大きく息を吸った。 が、その反論の言葉は出てこない。 図星に違いないからだ。 「…そうですよ、好きじゃなきゃ付き合わないでしょ。だってシュウくんそこそこかっこいいし、社会人になってちょっと弛んだけどそこそこ良い身体してるし、それに!」 ガン!と部屋中に響いたのは、空になったビール缶を姫井がテーブルに叩きつけた音だ。 「日本屈指の名門K大文学部卒で日本最大手の出版社勤務、入社3年目にして年収1000万超え!!ああ見えてとんでもないハイスペックなんですよシュウくんは!!!」 「1000万だと!?」 「ただし残業代と休日手当を多分に含む!!」 「お、おお…」 秀一のまさかの年収に食らいついた望月は、その真実にひくりと頬を引きつらせた。 逃がした魚はでかかった。大学卒業と同時に付き合い始めて、社会人になって数年。秀一の側を離れて数ヶ月。ようやく秀一の凄さがわかったのだった。例えアッチ方面に不満があったとしても、そんなものは小さな問題だったのかもしれない、と。 それに。 「…それに、めちゃくちゃ優しかった。」 ただの友達だった頃も、付き合ってからも、秀一はずっと優しかった。わがままを言って困らせても仕事のストレスで八つ当たりしてもしょうもない酒の失敗に巻き込んでも、あの得意の力の抜けたヘラっとした笑い方で「しょうがないなヒメは」って許してくれた。だから今回だって、泣きついたらいつもみたいに笑ってくれると思ったのだ。 とんだ甘えだったとも気付かずに。

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