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Only one/4
ぽん、と頭に置かれたのは、暖かくて大きな手だった。
「ま、しゃーないな。駆け引きするほど秀一くんは器用でも経験豊富でもなかったっつーことだ。ついでに言えば君と違って素直で良いやつだってことだな。」
「僕と違ってってどういう意味ですか、会って間もないのに。」
「褒めてるんだぜ?見る目は確かだってことだ。良い男に惚れたな、うん。次に活かせよ。」
ニコニコと屈託のない笑みを浮かべながらそんなジジくさい説教を垂れる望月を、ジトリと見遣る。
元はと言えば、この好みど真ん中すぎる人に出会ってしまったのが原因だ。気持ちが浮ついてフラフラしなければ、今も秀一の隣には自分がいたかもしれない。
責任転嫁もいいところだが酒と自棄が手伝って、姫井はゆらりと立ち上がって望月の隣に腰掛けると、ペラペラと調子よく喋り続けている望月の手にそっと自らの手を重ねた。
「まぁ出来れば君みたいなタイプは年上のお金あるお姉様に可愛がっていただくのが円満と思うけど…ん?何かなこの手は。」
「僕…ゲイだから年上のお兄様に可愛がって欲しいです…」
「そうかーゲイなのか。うーん俺の知り合いは金持ってる奴いないしなー、…奏真が一番金持ってるだろうな…」
「…望月さんは?」
「俺?」
背の高い望月は、わざわざ覗き込まなくても自然な上目遣いが使えた。
酒に酔ってほんのり赤らんだ目元と潤んだ瞳で下からじっと見上げて、ふっくらとした唇は半開きで、そう、キスを誘うように、いやらしくなくそれでいて期待に満ちた瞳を向ければ大抵の男はグラリと揺らぐ。
至近距離で絡み合った視線に拒絶の色は感じない。ゆっくりと首に手を回しても、まだ視線は繋がったままだ。姫井はそれをオーケーと捉え、形のいい薄い唇にそっと己のそれを重ねた。
ほんの一瞬の口付け。微かなリップ音が身体の奥に響く。もう一度、と再び顔を寄せようとした時、望月は静かに口を開いた。
「…俺は、ダメだよ。」
「どうして?男はダメですか?それとも恋人がいる?」
「いいやそうじゃない。」
「なら………」
慰めてください。
耳元で囁きながらするりと望月の股間に手を這わせると、ぐるりと視界が回った。
ああほらね、ダメだとか無理だとか口では言ったって、盛んな年頃の男なんてみんなちよっと誘惑すればすぐ落ちる。この神に愛されたイケメンも共に汗と涙と精の今夜を過ごして翌朝にはもう僕の虜に━━━
「いたッ!!いたたたたた!!ちょ、痛い痛いやめて離してええええ!!!」
「何かなぁこの手は?ちょっとおいたが過ぎるんじゃねぇ?ん?」
「ちょっ!痛い痛い痛い千切れる!!痛いですごめんなさい痛いです!!やめてください!!」
あっという間にぐるりと反転して姫井に馬乗りになった望月は、不埒な誘いをかけた手を思い切りつねって、これでもかと言うほどいい笑顔で姫井を詰った。
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