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第四章 -12

「しっかし…今まではぐれ召喚獣に極力合わないよう避けてたってのに、まさかこっちから探す日が来るとはなぁ」  祐貴のとなりに並んだマルトがどこか可笑しそうにぼやけば、後ろから「そーだなぁ」とジーンのんびりした相槌が返ってきた。  祐貴たちはさっそく森へ出ていた。立てられた作戦は祐貴がはぐれ召喚獣を使役できることを前提にしたものだ。まずはその召喚獣を探さなければと村を出た祐貴だが、一人では危険だと、マルトとケント、ジーンが武器を携えて付いてきている。  正直に言ってその申し出はありがたく、駄目だったらどうしよう、という祐貴の不安は少しだけだが和らいだ。虎のメンバーと一緒は嫌だという気持ちはもうなかった。 「なぁ、ユゥキ。お前、召喚獣がどこいるとかは解るのか?」  ケントの質問に祐貴は首を振った。自分でも解らないかと思ってみたが、気配なんてまったく掴めない。 「じゃーさぁ、水辺に行ってみようや」  そのジーンの提案で、四人は近くの湖に向かうことにした。何でも水辺では遭遇率が高いそうだ。暫く無言のままジーンの先導で歩き続け、すぐ水辺についた。しかし、そこには何の生物の姿もない。  仕方なく、湖の側の茂みに身を潜め、何者かが来るのを待つことにした。 「普通の動物もいねぇなぁ」 「つーかさ、湖に氷張ってるから動物来ないんじゃねぇの?」 「あ、そっか…いやいや、召喚獣は飲まず食わずで大丈夫なんだろ?」 「ん?じゃあなんで水辺に多いんだよ」 「そんなの俺知ーらなーい」 「俺、召喚獣が水飲んでるの見たことあるぜ」 「ならそれ召喚獣じゃなくてただの獣だったんじゃん?」  ぽんぽんと交わされる緊張感のかけらもない会話に、祐貴は呆れながらもどこか安堵した。  国師団の襲撃は多分明日で、早く召喚獣を見つけなければいけないのだが、楽観的な空気に焦りも薄れていく。 「いやいや、あれは召喚獣だったって。だって尻尾が二股だったぜ」 「へー。そういや、ユゥキはどんな奴見たことあんの?」 「え?」  急にジーンから話を振られ、祐貴は遠くを眺めていた視線を周りに戻した。見れば、三対の目が興味津々とこちらを伺っていた。 「あ…と…」  僅かにたじろぎながら、祐貴の頭には一人のズボラそうな男と一匹の青い獣の姿が浮かんだ。自分を落ちこぼれだと卑下するファイラと、アールという名の豹のような獣。  ファイラたちと別れてからいくばくも経っていないのに、随分昔のように思えた。 「……俺の見た召喚獣も、尻尾が二つあった」 「ほらほら、俺の見たのも召喚獣だったんだって」  祐貴の言葉に、ケントが何故か自慢げに身を乗り出す。あっそ、とジーンがどうでもいいとばかりにそれを流し、祐貴にさらに詰め寄る。 「そいつ、ユゥキの言うこと聞いたんだ?」 「うん。おっきな牙があって、豹みたいだったんだけど、大人しい子だった。少しの間だったけど、一緒に過ごしてよく助けてくれた。背中に乗せて運んでくれたり…」  最初こそ怖くて仕方なかったが、あの青い瞳はいつも静かに祐貴を見ていた。見た目よりも柔らかな毛に触れるのは心地よかった。 「それで、その召喚獣はどうしたんだよ?」 「魔導士と一緒に別れた」 「はぐれじゃねぇんだ?」 「うん。知り合いの魔導士の召喚獣で、アールって名前だった」 「はぁー…主がいる奴も従うってか。すげぇな」  感心したようにマルトは頷く。その表情に祐貴を疑う色はない。それはケントとジーンも同じで、祐貴は自分が信用されていることがわかり、驚くとともに照れくさかった。 「あいつらすげぇ足速ぇだろ」  マルトの質問に、祐貴は頷いた。 「うん、すごい速かった。振り落とされないように必死にしがみついてた」 「すっげぇ!俺も乗ってみてぇな」  少年のように目を輝かせながらケントが言えば、隣に座ったジーンがくすっと笑った。 「いやぁ、ケントみたいなおデブが乗ったら召喚獣も走れないでしょー」 「んだと、ジーン!」 「あはは、違いねぇ!」  ジーンの言葉に便乗し、マルトもケラケラと笑いだす。ケントは窘める声を上げているが、実際は怒っていないのだと解る。慣れ合いのようなものだった。  祐貴もその楽しい空気に飲まれてしまっていた。思わず、ふ、と顔が緩んだ。  その瞬間、笑っていたジーンとマルトも、そして怒ったように見せていたケントもぴたりと動きを止め、目を見開いた。 「……えっ…」  その見開かれた視線がじっとこちらに向いていて、祐貴は一瞬息を止めた。急に黙り込んでまじまじとこちらを見てくる三人に、居心地悪く尻をもぞつかせる。 「な、なに…」 「いや、お前、笑えるんだと思って」 「うん、つーか…さっきから普通に俺らと話してるのもわりと不思議だったんだけど」 「だよねぇ、いつもツンツンしてたのに」  三人のそれぞれの言葉を理解すると同時に、祐貴は顔を熱くした。居たたまれず三人から顔を逸らすように俯く。 「あはっ、また可愛い反応したよ。なんなんだろねこの子、昨日からわりと反応いいよね?」  ジーンの言葉に残りの二人が頷く。祐貴はますます恥ずかしくなった。  言われてみれば、祐貴自身、笑ったのは随分久しぶりのことだった。最後に笑ったのはいつだったか思い出せない。まさか自分が笑えるとも思ってなかった。それに、一昨日までは声をかけられてもむすっとした顔で二三言応えるか無視かで、こんなにぺらぺらとしゃべったりしていなかった。三人が驚くのも無理はなかった。  三人の態度は前々から同じだ。変わったのは彼らと慣れ合うことに対して罪悪感を持っていた祐貴の心だ。  よくよく考えてみると、今までの祐貴はかなり感じの悪い人間だった。それでも変わらない態度で接し、信じてくれていた彼らはかなり度量の深い男たちなのかもしれない。  あっさりと掌を返した自分が恥ずかしいが、もう自然と笑ってしまえるほどに罪悪感はないのだ。襲われ売られかけたという過去もあるが、もうそんなに恨んでもない。腹を括って彼らと付き合っていくと決めたのだ。 「あの、今まですごく嫌な奴だったと思うけど…こ、これからは態度をちゃんと改めるから…」  仲良くしてほしい、と言うのも変な感じがして祐貴はしばらく口ごもり、ややあってから顔を上げて三人をじっと見つめてから再びばっと頭を下げた。 「よろしくお願いします」  ぷっと誰かが吹き出す音がしてから、祐貴の頭がポンポンと叩かれた。こんな風に触れられるのも、不快ではない。  祐貴がそっと顔を上げると、少し呆れたようなマルトがいた。 「いや、やっぱお前真面目だわ」  その隣で、ケントがにかっと歯を見せて笑った。 「あれか!ようやく俺を受け入れる気になったってことか!」  爽やかな笑顔と裏腹に、ケントの厚い手は祐貴の臀部に伸びてきた。祐貴は慌ててその手を叩き落とした。 「違う!」  スキンシップ程度なら平気だが、性的な触れ方は心底嫌だ。眦を釣り上げて怒鳴ると、ケントは芝居がかったように苦笑しながら手を引っ込めた。 「おうおう、きびしーぜ」 「そーそ、ケントよりまず俺でしょー?」 「それも違う」  ジーンの言葉に間髪いれずに祐貴が突っ込むと、誰からか笑いが飛び出てそのまま三人は笑い合う。祐貴はしかめっ面をしていたが、その空気を心地よく感じていた。  ジーンはもとより、ケントももう本気で祐貴をどうこうしようという気持ちはないのだろう。  そうして笑い合っているうちに、ふと、祐貴以外の三人が急に口を閉ざした。祐貴もはっと口を閉じ、三人の様子を伺う。  三人は今度は祐貴ではなく、茂みの向こう、湖の方へ意識を向けている。祐貴もそちらに目を向けた。 「来たか…?」  どこか緊張した小声に、祐貴は知らずごくりと唾を呑んだ。  祐貴には全く解らなかったのだが、三人は気配を掴んだのだろう。じっと注意深く見つめる先にある茂みが、ガサガサと動いた。何かがいる。  ガサガサと葉が擦れる音がだんだんと大きくなってくる。まだ、獣の姿は見えない。  祐貴は拳を握りしめ、じっとそこに集中した。姿が現れて祐貴の声が届く範囲に来たら、すぐに命じる。害をくわえられる前に。  そして、ガサっと一際大きな音を響かせ、ついに茂みから獣が飛び出て来た。 「……っ!」  その瞬間、祐貴は一気に脱力した。そしてそれは他の三人も同様に。 「なーんだ…」  どこかがっかりしたジーンの言葉に、祐貴も同調していた。  茂みから飛び出て来た獣は、小さな兎だったのだ。愛くるしい姿に一気に緊張が解けていった。 「兎か。ちょうどいい、捕まえて晩飯にでもするか?」 「ああ、兎のスープ美味ぇよな」  茶色の毛並みの兎はそんな不穏な会話がされているとも知らず、ぴょんぴょん飛び跳ねて湖の際まで来ると、鼻をひくひくさせながら周りをきょろきょろ見回している。 「んじゃあ、いっちょ捕まえるか。暇だし」  ケントはにやっと笑うと、小さなナイフを懐から取り出した。一人茂みを移動し、中腰のまますっと息をひそめ兎に照準を合わせる。兎までの距離は五メートルくらいか。  ふと、兎がこちらに顔を向けた。気付かれたかと思ったが、兎は動くことなくじっとこちらを見ているだけだ。そのことに、祐貴は違和感を覚えた。葉の隙間からじっと見ている祐貴と、その兎の視線がかち合ったかのような気がしたのだ。 「……それじゃ、いただきまー…」  祐貴たちより少し離れた場所でケントがナイフを投げようとしたそのとき。 「違う!兎じゃない!!」  祐貴は立ち上がると、ケントを体当たりするように押し倒した。  次の瞬間、ケントがいた場所をゴオっと炎が通り抜けた。すぐ側に熱を感じ、祐貴は自分の勘が当たったことを確信した。 「な、な…っ」  つい一秒前にいた茂みは強すぎる火力に焼け焦げ、炭と化していた。ケントが驚きに口をパクパクと開閉させる。  そんな間抜け面のケントを力任せに引っ張り、祐貴はケントと共にごろっと地面を転がった。真横をまた炎が通り抜ける。 「嘘だろ!兎が火噴いたっ!」  我に返ったケントが叫びながら飛び起き、祐貴の体を引きながら襲いかかる炎を避ける。ケントの言葉通り、炎は確かにあの小さな兎の口から吐き出されている。 「わっと…!」  ケントは祐貴を抱えながらも、素早く炎を避けていく。しかし、兎からの攻撃はやまない。  と、少し離れた茂みからマルトとジーンが飛び出した。 「召喚獣ってかぁ。ほらほら兎さん、こっちだよーっと」  二人が兎に向かってナイフを投げる。祐貴たちを襲っていた炎が止み、兎の意識は二人に移った。 「っ!」  祐貴は急いでケントの腕から抜け出し、兎の方へ向かう。  兎の口が開き、マルトとジーンに向けられる。 「……やめろっ!!」  祐貴は大声で叫んだ。兎の耳がぴくっと動き、口がぱくっと閉じられる。きょとん、とした兎の顔が祐貴へ向けられた。その姿はどこからどう見ても兎で、先ほどまで火を噴いていたことが信じられない。  祐貴は大きく息を吐く。上手くいった。 「……びっくりしたー」  ふう、とこちらも大きく息をもらしながら、ケントが祐貴の側へきた。 「ケント、平気か?」 「ああ、心臓にゃ悪かったが、怪我はねぇよ」  マルトとジーンも心配そうにしながら寄ってくる。  祐貴はそちらをちらりと見てからしゃがみこむと、兎――の姿をした召喚獣に向けてそっと手を差し伸べた。 「……おいで」  祐貴が言えば、茶色の獣はぴょこぴょこと可愛らしく飛び跳ねながら手に寄ってきた。そして、甘えるように祐貴の手に柔らかな毛を擦りつけてくる。 「かわいい…」  思わず呟いていた。先ほどまで炎を吐いて襲いかかってきたというのに、その愛らしい姿と従順な行動に恐怖感は全く湧かない。ここ最近、動物には嫌われていて触れることすら叶わなかったということの反動もあったかもしれない。  祐貴は思い切ってその小さな体を抱きかかえた。兎は大人しく祐貴の腕の中に収まる。むしろ、じっと祐貴を見上げてくる茶色の瞑らな瞳は、それを喜んでいるようにも見えた。 「すげー…本当に言うこと聞いてる」  ケントが祐貴の上から、腕の中の召喚獣を覗きこんでくる。そのさらに後ろからは残り二人も不思議そうに祐貴たちを眺めている。 「うん、上手くいったみたいだ」  祐貴は召喚獣を抱えたまま立ち上がると、三人を振りかえった。安心から顔が緩む。 「いやでも、ほんと、兎にしか見えねぇのになぁ…」  感心した顔でケントが獣へと手を伸ばした。すると兎は瞬時にそちらを向き、また口からボッと火を噴いた。 「うわっ!!」  ケントが慌てて手を引いて体ごと避ける。祐貴も目を丸くして狼狽しながら口を開いた。 「わっ、わ、ちょっ…この人たちに攻撃したらだめだ!」  そう言えば、また召喚獣は大人しくなってきょとんと兎そのものになった。 「怖っ!召喚獣怖っ!」 「お前、迂闊に手出すからだろ馬鹿」  顔を青ざめさせながらケントが叫べば、笑いながらマルトがその背を叩く。  無事だったことにほっとしながら、祐貴は召喚獣の瞳をじっと見つめた。 「力を貸してほしいんだ。一緒に来てくれるか?」  語りかければ、召喚獣は了解したと言わんばかりに祐貴の首筋にぐりぐりと額を押し付けてきた。少しくすぐったいが、暖かい。 『…仲間に攻撃しないでくれよ?』  祐貴はあえて日本語で付け足した。仲間だなんて調子のいいセリフを他の三人に聞かれたくはなかった。すると、召喚獣は今度は解ったとばかりにきゅぅ、と一声鳴いた。祐貴は嬉しくなって微笑んだ。 「もう触っても大丈夫だと思う」  祐貴がそう言えば、ジーンが一番に手を伸ばしてきた。ケントはまだ少し怖いのか、おっかなびっくりといった様子でジーンを伺っている。 「ははっホントだ。かーわいぃの」  ジーンが頭を撫でると、召喚獣は気持ちよさそうに目を細めた。 「さ、てと。一匹確保だな。どうする?とりあえずそいつだけにしとくか?」  マルトがぼりぼりと頭を掻きながら訊ねてくる。この子は力を持っていそうだが、一匹だけでは不安だ。見つかるならばまだ召喚獣を手の内に入れておきたい。 「でも日も暮れてきたねぇー…そろそろ戻らなきゃやばくなってくるけど。真っ暗になる前に見つかるかねぇ」  そのジーンの言葉通り、もう日が沈みかかっている。真っ暗になれば召喚獣を探すどころか、村に帰るのも難しくなってしまうだろう。この真冬に野宿は厳しい。  結局あと半時と決めて、祐貴たちは粘ることにした。ひとまず湖から離れ、今度は川の方を目指す。  しかし、川を目指す途中にも、生き物の気配は感じない。ただの獣すら見当たらなくて、祐貴たちは途方に暮れた。 「いやー…これほどかち合わないってのも珍しいよなぁ」  祐貴はまだこの森を歩くのは二度目だが、初めての時も獣の声が遠くから聞こえたものの、姿は全く見なかった。しかし、マルトの言葉にそれが普通ではないのだと解る。あのときのヴェダも、獣に鉢合わせないのは珍しいと言っていた。  祐貴はその理由が自分にあるような気がしてしかたなかった。しかし、そんなことを今ここで漏らしてもどうしようもないので、黙ったまま周りを探す。  そうこうしているうちに、あっという間に日は落ち、半時が過ぎた。 「仕方ないねぇ、いったん戻ろうか」  携帯用のランプを点けたが、もう周りは真っ暗で足元を見るのも覚束ない。ジーンの提案に反対はできなかった。四人は村へ帰ることにした。 「まあ、そいつだけでも上出来じゃねぇ?」  祐貴が抱える兎を見ながらマルトがのんびりと言う。それにジーンが頷いた。 「そうそう。あ、そうだ。名前付けとくぅ?」 「そうだな。名前あった方が便利だな。ユゥキ、なんかつけとけよ」 「えっ…そう、だな…」  腕の中の兎がじっと祐貴を見つめてくる。時折鼻をひくひくとさせながらも、茶色の瞳は祐貴にじっと向いている。 「えーと…じゃあ、ハナ、にする」  祐貴が思いつきで命名すると、兎――ハナはきゅうん、と喉を鳴らした。それが返事のようで、祐貴は少し癒された。  そうだ、ハナを得ただけでも十分に大きな収穫だ。  しかし、そうは言っても。 「もうちょっと味方がほしかったな…」  祐貴はぽつりと呟いた。それが本音だ。他の三人も同じ気持ちではあるだろう。 「ああ、もうつくぞ」  一番先頭を歩いていたケントの言葉に顔を向ければ、村はもうすぐそこだった。  そのとき、急にハナが腕の中で暴れ出した。 「えっ?ちょっ…」  慌てる祐貴を余所に、ハナは腕から飛び出すと、一目散に村とは反対の方向へ駆けだす。 「待っ…」  急いで手を伸ばしたが、待て、と命ずる暇もなく、ハナは茂みへ飛び込んでガサガサという音がすごい速さで遠ざかっていく。 「なんで、待って…!」  慌てて後を追いかけようとした祐貴だが、その腕をジーンが掴んで止めた。 「馬鹿、追いつけない、迷うだけだ!」 「でも…っ」  あの子がいなければ、計画が崩れる。明日に向けての大切な戦力なのに。 「あーびっくりした…ユゥキ、怪我してねぇか?今までずっと大人しかったのに、いきなりなんだってんだ…」  驚いた様子のケントに訊ねられ、祐貴はフルフルと首を横に振る。怪我なんてしていない。ただ呆然としていると、マルトがあっと声を上げた。 「そうだ、そうだよ。村の周り樹液塗ってるから逃げたんじゃねぇか?」 「そんな…」  そうだ。村の周りにははぐれ召喚獣が入ってこられないように特殊な樹液を塗っているのだ。そんなことすら失念してしまっていただなんて、間抜けな話だ。 「うわー俺たち相当馬鹿じゃん」 「だよなー」 「ま、今まで召喚獣とっ捕まえて連れてこようだなんてしたことなかったしなぁ」  祐貴以外の三人はまるで気にした様子もなく呑気に会話を交わすが、祐貴は絶望に泣きたくなった。ヴェダは祐貴を信用して作戦を立ててくれたのだ。それなのに、その前段階で失敗するなんて。 「ユゥキ?おい、大丈夫だって」  マルトが祐貴の肩を慰めるように叩く。なぜ、この三人はそんなに楽観視しているのだろう。祐貴は三人に対して理不尽な怒りすら湧いてきた。完全にやつあたりだ。  すると、その祐貴の疑問を察したようにマルトが続ける。 「今日はユゥキが召喚獣を使役できるって確信を得ただけで十分な収穫なわけだ。ユゥキだけですげー戦力になる、大丈夫だろ。向こうの戦力はほとんど召喚獣だ。なんとかなるって」 「そうそ、いつもより人数少ないって言っても、俺たち負けなしだし」  そうは言っても、祐貴は一人しかいない。祐貴の手が回らなかったら。そのために召喚獣の味方を得ておきたかったのに。 「とにかく、さっさと戻って作戦を煮詰めるぞ、ほら」  促され、祐貴は自分のふがいなさに唇を噛みしめながらとぼとぼと三人に続いていった。

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