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第2話
―2年前―
「お前さ、まだあれ育ててんの?なんとか美人ってやつ」
「あぁ。育ててるよ、ムカつくから」
龍二が、馴染みの居酒屋で友達と飲んでいた時だ。思い出したように、友達が龍二が育てている月下美人の話題をふってきた。花を育てるような男ではない龍二が、いまだに育てているのが不思議でならないらしい。しかも、元カレの所有物だったものだ。
龍二を、会社の重役の娘と結婚するからと切り捨てた最低男の“忘れ物”。
最初の頃は捨てようと何度も思っていた。でも、付き合い初めてから毎年一緒に月下美人が花開く姿を見てきたのだ。
1年に1度しか花を開かない、しかも夜にだけ。その瞬間を見るのが好きだったのだ。
例え隣に元カレがいなくても、見たいと思ってしまう。だからいまだに捨てられない。
「今年は咲いたの?」
「んにゃ、まだ咲いてねーよ。でも、そろそろ咲くんじゃねーかな?満月も近くなってきたし」
「ふーん。でも、こんな暑い時期に咲くんだな」
「んー。詳しくは知らねーんだけど。俺が育ててるやつは、毎年夏に咲くな」
初夏から秋にかけて花を開かせる月下美人。龍二が育てている月下美人は、ちょうど暑い夏の時期に花を開かせていた。
ジワッと暑い夏の夜、月の光を浴びて花を開かせる。いつ開くか分からない月下美人を眺めながら、酒を飲むのが龍二の定番だった。
だから、夜中はずっと起きていて朝仕事に出掛ける。仕事から帰ってきたら、夜までぐっすりと寝る生活をしている。夏の間だけだ。
「だから俺、そろそろ帰る」
「おい。まだ20時だぜ」
「いいの。もしかしたら、今日月下美人が咲くかもしんないだろ?」
そう言って龍二が席を立った時だ。
「あなたの家では、月の光を浴びながら美人がどのようにして咲くのですか?」
「………はい?」
「美人が咲くなんて、日本のはすごいですね!ボク、知りませんでした!」
隣に座っていた、黒髪で褐色の男性が青い瞳をキラキラと輝かせて立ち上がった龍二を見上げていた。
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