7 / 12

7

「意地悪で結構だ」 龍次の手が、僕の頭をそっと撫でる。 見上げて見れば、そこに先程の冷笑は無く。何処か優しさを滲ませた視線とぶつかる。 「……」 あれだけキツい事を言っておきながら…… 急に優しくするなんて……ズルい。 涙腺が簡単に緩み、熱くなった瞳の縁から大粒の涙がポロポロ零れ落ちる。 ──チリンッ 緩い風が吹き、僕と龍次の頬を優しく撫でた。 底の丸い小さな金魚鉢の中にいる琉金が、腰を小刻みに揺らし、尾に付く綺麗な羽衣をゆらゆらと揺らめかせる。 「……龍次」 零れた涙をそのままに、畳に手を付いてその金魚を上から見下ろす。 「……ん?」 そう答えた龍次の声は、やはりいつもと違って優しさが滲む。 来て早々に部屋持ちとなった僕は、他の遊男から妬まれ、あからさまな態度を取られている。 もし大部屋に移った時にこれを持っていったら、何をされるか解らない── 「これ、龍次に貰って欲しいんだけど……」 寂しげに、鉢の中を泳ぐ琉金。 遊郭の中でしか生きられない、僕と同じ…… それを感じさせず、『僕を見て』とばかりに龍次の方へと顔を向ける。 「……悪ぃが、それはできねぇ」 腕組みをした龍次の口から、無情な言葉が吐かれる。 「……え」 愕然とし、瞬きも忘れ、幽閉された金魚に視線を落とす。 「──それなら、川に」 流して…… そう続けようとした僕の言葉に被せ、龍次が僕の名を呼ぶ。 「結螺!」 それに驚いて、弾かれたように顔を上げる。 「……暫く、預かっててやるよ」 瞳に優しさを宿し、今まで見た事のない優美な微笑みを浮かべる龍次。 それはまるで、花魁のような気品溢れた色気を纏っていて…… 一瞬で、心を鷲掴みにされてしまった。 ……龍次…… 僕の様子に気付いた龍次は、直ぐにいつもの顔に戻り、ニヤリと冷笑する。 「その代わり。……こいつが生きてるうちに返せるよう、早く部屋持ちの遊男になるんだな」 「……!」 龍次から顔を逸し、熱くなった頬をぷぅと膨らませると、唇を尖らせる。 ……やっぱり龍次は、意地悪だ。

ともだちにシェアしよう!