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おかしくないか?

 俺たちは北海道へ行くことになった。  そして今、確かに北海道に向かっている。  なぜか車で。  ていうかさ!  北海道行くってなったらフツー飛行機でひとっ飛びだよね?  なのに車二台でちんたら走り続けて既に一昼夜過ぎた。しかも俺らが乗ってるのは姉崎の車じゃ無い。  そう、つまり、やっぱり姉崎は一筋縄じゃ行かないやつだったのだ。 「藤枝! ビール寄越せビール」 「うわあっ、はい!」  これは監察の庄山先輩。小柄で固太りで黒縁メガネ、確実に大学生だけど既に貫禄あって、おっさんぽい…いやいや、できる公務員な感じ漂わせてるヒト。 「俺もビール」 「はいっ、これどうぞっ!」  保守の小谷先輩は渡したビールを見てじろりと俺を睨んだ。 「なんで発泡酒なんだっ! 俺がビールを買って置いただろうが!」  銅鑼鳴らしたみたいな大声、こえ~!  小谷先輩は柔道部主将でもあり、丹生田と同じ位デカくて丹生田以上に体の厚みがある。しかも顔が怖くて声がデカい。 「すみませんっ! 飲みきったんでさっきコンビニで買ったんすけど新山先輩がこれでいいってっ」  ただでさえゴツイのにやめてよ~、とか思いながら言い訳する。 「馬鹿が。買い出しに会計なんぞつれて行くな」  重低音の小谷先輩の声を、「黙れ小谷」と甲高い声が遮った。 「支出があるところ、俺がそこにいるに決まってるだろ。無駄な出費は厳に謹んでもらう」  すでにビール飲んでる新山先輩が神経質そうな顔をしかめ、幅も重さも倍はありそうな小谷先輩にツケツケと言う。会計部部長、新山先輩は会長をもしのぐ権力者だ。このヒトの決済が降りないと何もできないからね。 「こんなモンはビールじゃ無い」  とか抗弁してる小谷先輩も、もちろん勝てない。  二人がどんどん声高になってくけど、全く気にしてない総括(そうかつ)の大熊先輩が後ろからにゅっと手を突き出した。 「藤枝ぁ~、俺も~。発泡酒でもイイよ~」 「はい、どうぞ!」  とその手にビールを渡す。この人は今時男子って感じでおしゃれで、顔もイケててヘラヘラしてて、すごくモテる。軟派な感じだけど、実は結構厳しい。 「つうかなんでビールばっか? チューハイとかハイボールとかねえの?」 「あっ、次止まったら買いますっ!」  そこら辺よく知ってるのは、実は俺が総括副部長だからだ。なんで丁重につまみも差し出した。  ロン毛一本縛りの津田会長は、いつもアニメキャラのTシャツにコッパンつう、なんつうかちょっとオタな感じのダサダサなんだけど、目力とこだわりがすごい。  茶髪メガネで貧相な乃村(のむら)副会長は、やたら声が通る。集会ん時なんかマイクなしでも乃村先輩の声だけはっきり聞こえるからね。  この二人はビール飲みつつタブレットで何か見てヘラヘラ笑ってる。会話から、おそらくゲームの動画を見て突っ込んでると思われた。  そして運転が施設部の大田原部長。  つまりここには保守と監察と会計と施設部と総括のそれぞれトップ、そして自治会会長と副会長が乗ってるわけ。  北海道旅行は俺らへの報酬だったはずなのに、姉崎のやつってば、どう転がしたんだか、いつのまにか執行部のイベントにしちまいやがったんだ!  しかもクドいかもだけど車で、だよ?  なんでちんたら国道走ってるのかな? せめて高速使おうよ! と言いたいが言えるわけが無い。会計の新山先輩がこの旅程を決めたのだ。 「この人数で飛行機だと? この時期飛行機代が高くつくことを知らないのか! 団体割引考えても無駄な出費だ。俺たちには時間があるんだから金を節約するべきだ」  鶴の一声だった。こと金が絡むと細かい新山先輩に逆らう人はいない。  二台の車の運転手二名、つまり姉崎と大田原先輩も、フェリーで一泊つうか仮眠のみで休みなしだけど、愚痴は言っても新山先輩に文句は言わない。  姉崎は車持ってるけど普通の乗用車で最大定員五名、この人数じゃ無理ってことでワゴン車レンタルしたわけだが、これも格安だ。ガソリン代の方がレンタカー代フェリー代含めても安く上がるってさ~、正解かもだけど。  しかもあくどいことに姉崎のやつ、自分の車には無害な食堂担当の岡部さんと穏便な方の副会長尾方(おがた)先輩と鈴木だけ乗せやがって「定員オーバーでーす」とかいってさっさと走り出すし!  つうわけでこっちのハイエースには面倒な先輩たちがひしめいてて、さらに丹生田はデカいから後ろにいると場所ふさぎだっつう理由で助手席だ。運転手、大田原先輩への奉仕に従事してる。  ぜんっぜん一緒に旅行って感じじゃねえし! 「うう眠くなってきた~。丹生田ぁザイル歌え~」  大田原先輩がミントタブレット口に放り込みながら、ちょい粘着な口調で言う。 「……無理です」  背が高くて、優しそうな丸顔で、すげえ手先が器用なんだけど、見た目フツーの大学生って感じで、ものの言い方とか柔らかくて話しやすい。施設部部長、大田原先輩は、こっちのメンツの中じゃ一番常識的で穏便なヒト。  なんだけど…… 「無理じゃあねえだろ~? なあ丹生田ぁ、できるだろ~」 「…ラ…ラァーイジーンサァーン…」 「な~んでサビからだよ」  地を這うような不機嫌な声に、「すみません、ここしか知りません」と丹生田は素直に詫びている。  だよね!  いくら温厚な人でも、こんだけ長距離運転続けてて、後ろで酒盛りされたらイラッとするよね! 「ちっ、使えねえなぁ。もうなんでもいいから歌え~。俺の目を覚まさせろ~」  丹生田はグリーンとか歌い始めたが「声が小さい!」と言われて声を高めた。すでにただ怒鳴ってるみたいになってる。丹生田って基本体育会系だから先輩に対して服従なんだよな。  つうかなんで姉崎と大田原先輩しか免許無いのかな? おかしいよね? いや、俺も無いけど。 「藤枝っ、なんでのり塩じゃねえんだ。ポテチはのり塩だろ」  津田会長に鋭い声を向けられて、「うはいっ!」俺は声を上げる。そのままポテチについて自説を語られ、「次のコンビニで買いますからっ」とか答えてると、あんま酒に強くない乃村先輩が俺の肩に弱々しくすがってきた。 「…しょんべん」  顔が真っ青!  「うああ、乃村先輩、ちょっと我慢してっ!」  やっべえ、酒に酔ったんだか車に酔ったんだか分かんねえけど、俺はビニール袋を口元にあてがいながら叫ぶ。 「大田原先輩っ! トイレ休憩お願いしますっ!」 「おおー」  気だるげな返事の後、先輩は「丹生田ぁ」と呼びかける。  すぐに携帯を手にした丹生田は、生真面目に電話かけてる。 「…鈴木か? トイレ休憩入るそうだ。ついてくるよう姉崎に言ってくれ」  これおかしくね? おかしいだろっ!?  俺は帰ったら免許取りに行こう、と固い決意をしつつ、先輩たちへの奉仕をひたすら続けたのだった。

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