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買い出し
十時過ぎて、鈴木のお兄さんがやってきた。
メガネかけててちょい太ってて三十くらいに見えるけど、ああ鈴木と同じ血筋だって分かる。マジそっくり。
「お待たせしました。軽トラ出します」
渡り廊下の改造のために必要な資材の買い出しらしい。
「お願いします」
大田原先輩と姉崎の他、ガタイ良いのが選ばれて出かけた。ありゃ荷物運び要員だな。とかいって、当然そん中に丹生田も入ってるわけで。
ああ、行っちまう~、とか思いながら切なく見送る俺。
けどやることはごまんとあるわけで。俺はせっせと働くわけで。
乃村先輩の指示の元、残ったみんなで渡り廊下を掃除したり、作業箇所にヤスリかけたり補修しておいたり、地道で手間かかる仕事だけど、コレやっときゃすぐ作業にかかれるってんで、きっちりやる。
会長なんてどうかなソレ、細かすぎじゃね? と思うくらい拘ってやってるし。
そんで一時間ちょいくらい経った頃、大田原先輩の声が聞こえてきた。
「おーい、手伝ってくれー」
なんと窓のサッシ持ってる。うわー窓だけってなんかシュール。
「おお、そろったのか」
新山先輩が声かけると、大田原先輩がニッコリ答える。
「お兄さんが廃材屋に連れてってくれて、そこにごっそりあったんだよ。程度の良い奴選べて、しかもタダ同然だ」
「でかした」
次々と運び込まれるサッシ窓を、俺らが渡り廊下へ運ぶ。
そのまま取り付け作業が始まり、雑用要員もそれなりに忙しくなる。
すると姉崎が「ねえ、パテとか用意した方が良くない?」と大田原先輩に聞いている。
「ちょっと歪んでるのもあるし」
「そうだな、あれば何かと使えるだろ。ああ、そんなら網戸のネットと枠も買ってこい」
「いくつ?」
「予備含めて五組もありゃ良いだろ」
「了解」
先輩相手とは思えない馴れ馴れしい口調はいつも通り。なのだが
「じゃあ二年生の二人、僕 として連れてってイイ?」
続いた台詞にカチンときた。
「はあ? シモベってなんだよっ!」
「好きにしろ」
けど俺の抗議は大田原先輩の了承と新山先輩に渡された金により、スッキリ黙殺される。
「俺は行かねーぞっ! 誰が……」
「行くぞ藤枝」
文句言ってやろうとしたけど、丹生田に腕つかまれて黙る俺ってめっちゃ安い。
駐車場まで腕つかんだままぐいぐい引っ張ってく横顔見ながら、考えたら一緒に出かけるってレアじゃん! とか機嫌直るって、まるっきりバカだなあ、とか我ながら思う。
でもいいや。ちょい楽しいぜ。
「はい二人とも、僕の素晴らしい愛車に乗せてあげよう~。おとなしく後部座席につきたまえ」
「うっせ!」
とか言いながら、丹生田と並んで座れるんだ~、とかウキウキ乗り込んだ。
だって来る時は助手席と後部座席に分かれてたし、その後一緒に出かけるとか無かったし。バカンスって感じじゃねえけど、もういいや。
ちっさな幸せを俺は享受するのだ。
「どこまで行くんだ?」
車がスムーズに発進すると、丹生田が声をかける。
「登別の駅前とか行けばホームセンターくらいあるでしょ。無かったら室蘭あたりまで行ってもいいし」
「そうだな。苫小牧まで行けば確実だろう」
「おお~、苫小牧まで行けと言うわけね? 策士~」
「黙って運転しろ」
「は~い」
丹生田と姉崎の会話は全く意味が分からなかったので、俺は黙って聞いてた。
姉崎の車は外車だ。乗り心地良いし、馬力もある。
服とか持ち物とか、なにげにコイツ金持ちっぽい。んで「所詮、平民だよね」的なイヤミになりそうなことを普通に言う。そしてそれがサマになる。むかつく奴だぜ。
顔も良いし、鍛えててパワーあるし、客観的に見てかっこいい。なんだかんだ先輩にも後輩にも人気あるし、偉そうでいつもヘラヘラしててむかつくけど、ホントはそこまでヤな奴じゃないのも知ってる。
あああ、やだな、なんでコイツ相手だと俺こんな卑屈っぽいんだ?
「健朗、約束の報酬って~」
姉崎が運転しながら言うと、丹生田はうっそりと返した。
「なんで報酬だ? 俺は相殺してやると言ったんだ」
「ははっ! そうね、うん、了解~」
なんの話だ? と隣に目をやると、丹生田もちょいニヤッとしてる。俺には分かるって程度の笑みだけど、機嫌良さそう。
―――そうか、丹生田と仲良いからだ。
(うあー、俺ってちっちぇー)
ずずーん落ち込む。
つうか丹生田が絡むと俺って冷静じゃないよな。イカンイカン、海より深く反省する。姉崎がいけすかないなんて今に始まったことじゃねえのにさあ。
「……どうした、藤枝」
「えっ、いや」
丹生田の声に、慌てて顔上げた。ちょっと心配そうな顔してる。
「なんでも……」
「本当か」
真剣に顔をのぞき込まれた。近い近い顔近いっ! つうか、いやいやいや、こんな顔させちゃダメっしょ!
なんで俺はニカッと笑い返した。
「うん、マジマジ! なんでもねえよっ!」
「なーになにイチャイチャしてんの君ら」
運転席から飛んできたニヤケ声にどっと汗が出る。
「ばっ……!」
この野郎! なに言い出すんだっ! 丹生田がせっかく優しいのに!!
「ばっか!! ヘンなこと言うな!」
気まずくなったらどうしてくれんだよっ!!
「ホント藤枝って小学生みたいだよね~」
ヘラヘラしやがって! マジでむかつくっ!!
「姉崎、いい加減にしろ」
「了解~」
くっそー! 姉崎って基本あまのじゃくなくせに、丹生田の言うことなら素直に聞くってなんなんだよっ、むかつくっ!!
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