11 / 22

買い出し

 十時過ぎて、鈴木のお兄さんがやってきた。  メガネかけててちょい太ってて三十くらいに見えるけど、ああ鈴木と同じ血筋だって分かる。マジそっくり。 「お待たせしました。軽トラ出します」  渡り廊下の改造のために必要な資材の買い出しらしい。 「お願いします」  大田原先輩と姉崎の他、ガタイ良いのが選ばれて出かけた。ありゃ荷物運び要員だな。とかいって、当然そん中に丹生田も入ってるわけで。  ああ、行っちまう~、とか思いながら切なく見送る俺。  けどやることはごまんとあるわけで。俺はせっせと働くわけで。  乃村先輩の指示の元、残ったみんなで渡り廊下を掃除したり、作業箇所にヤスリかけたり補修しておいたり、地道で手間かかる仕事だけど、コレやっときゃすぐ作業にかかれるってんで、きっちりやる。  会長なんてどうかなソレ、細かすぎじゃね? と思うくらい拘ってやってるし。  そんで一時間ちょいくらい経った頃、大田原先輩の声が聞こえてきた。 「おーい、手伝ってくれー」  なんと窓のサッシ持ってる。うわー窓だけってなんかシュール。 「おお、そろったのか」  新山先輩が声かけると、大田原先輩がニッコリ答える。 「お兄さんが廃材屋に連れてってくれて、そこにごっそりあったんだよ。程度の良い奴選べて、しかもタダ同然だ」 「でかした」  次々と運び込まれるサッシ窓を、俺らが渡り廊下へ運ぶ。  そのまま取り付け作業が始まり、雑用要員もそれなりに忙しくなる。  すると姉崎が「ねえ、パテとか用意した方が良くない?」と大田原先輩に聞いている。 「ちょっと歪んでるのもあるし」 「そうだな、あれば何かと使えるだろ。ああ、そんなら網戸のネットと枠も買ってこい」 「いくつ?」 「予備含めて五組もありゃ良いだろ」 「了解」  先輩相手とは思えない馴れ馴れしい口調はいつも通り。なのだが 「じゃあ二年生の二人、(しもべ)として連れてってイイ?」  続いた台詞にカチンときた。 「はあ? シモベってなんだよっ!」 「好きにしろ」  けど俺の抗議は大田原先輩の了承と新山先輩に渡された金により、スッキリ黙殺される。 「俺は行かねーぞっ! 誰が……」 「行くぞ藤枝」  文句言ってやろうとしたけど、丹生田に腕つかまれて黙る俺ってめっちゃ安い。  駐車場まで腕つかんだままぐいぐい引っ張ってく横顔見ながら、考えたら一緒に出かけるってレアじゃん! とか機嫌直るって、まるっきりバカだなあ、とか我ながら思う。  でもいいや。ちょい楽しいぜ。 「はい二人とも、僕の素晴らしい愛車に乗せてあげよう~。おとなしく後部座席につきたまえ」 「うっせ!」  とか言いながら、丹生田と並んで座れるんだ~、とかウキウキ乗り込んだ。  だって来る時は助手席と後部座席に分かれてたし、その後一緒に出かけるとか無かったし。バカンスって感じじゃねえけど、もういいや。  ちっさな幸せを俺は享受するのだ。 「どこまで行くんだ?」  車がスムーズに発進すると、丹生田が声をかける。 「登別の駅前とか行けばホームセンターくらいあるでしょ。無かったら室蘭あたりまで行ってもいいし」 「そうだな。苫小牧まで行けば確実だろう」 「おお~、苫小牧まで行けと言うわけね? 策士~」 「黙って運転しろ」 「は~い」  丹生田と姉崎の会話は全く意味が分からなかったので、俺は黙って聞いてた。  姉崎の車は外車だ。乗り心地良いし、馬力もある。  服とか持ち物とか、なにげにコイツ金持ちっぽい。んで「所詮、平民だよね」的なイヤミになりそうなことを普通に言う。そしてそれがサマになる。むかつく奴だぜ。  顔も良いし、鍛えててパワーあるし、客観的に見てかっこいい。なんだかんだ先輩にも後輩にも人気あるし、偉そうでいつもヘラヘラしててむかつくけど、ホントはそこまでヤな奴じゃないのも知ってる。  あああ、やだな、なんでコイツ相手だと俺こんな卑屈っぽいんだ? 「健朗、約束の報酬って~」  姉崎が運転しながら言うと、丹生田はうっそりと返した。 「なんで報酬だ? 俺は相殺してやると言ったんだ」 「ははっ! そうね、うん、了解~」  なんの話だ? と隣に目をやると、丹生田もちょいニヤッとしてる。俺には分かるって程度の笑みだけど、機嫌良さそう。  ―――そうか、丹生田と仲良いからだ。 (うあー、俺ってちっちぇー)  ずずーん落ち込む。  つうか丹生田が絡むと俺って冷静じゃないよな。イカンイカン、海より深く反省する。姉崎がいけすかないなんて今に始まったことじゃねえのにさあ。 「……どうした、藤枝」 「えっ、いや」  丹生田の声に、慌てて顔上げた。ちょっと心配そうな顔してる。 「なんでも……」 「本当か」  真剣に顔をのぞき込まれた。近い近い顔近いっ! つうか、いやいやいや、こんな顔させちゃダメっしょ!  なんで俺はニカッと笑い返した。 「うん、マジマジ! なんでもねえよっ!」 「なーになにイチャイチャしてんの君ら」  運転席から飛んできたニヤケ声にどっと汗が出る。 「ばっ……!」  この野郎! なに言い出すんだっ! 丹生田がせっかく優しいのに!! 「ばっか!! ヘンなこと言うな!」  気まずくなったらどうしてくれんだよっ!! 「ホント藤枝って小学生みたいだよね~」  ヘラヘラしやがって! マジでむかつくっ!! 「姉崎、いい加減にしろ」 「了解~」  くっそー! 姉崎って基本あまのじゃくなくせに、丹生田の言うことなら素直に聞くってなんなんだよっ、むかつくっ!!

ともだちにシェアしよう!