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もしかしてちょいデートぽくね?

 買い出しのため、町へ向かってるはずの車が、唐突に脇道にそれた。 「あれ? どこ行くの?」  思わず聞いたら「ちょっと休憩~」とか、ヘラヘラ声が言う。 「休憩って、ばか!」  俺は後ろから運転席に組み付き、やつの耳元に叫んだ。 「先輩たち待ってんだろ!? 早く買い物して帰らなきゃじゃん!」 「大丈夫だって。僕たちいなくても作業は進むし、君たち下僕扱いだったんだからちょっとくらい遊んだってノープロブレム!」 「そうはいくかよっ!」 「行く行く、大丈夫大丈夫」  脳天気な声の運転手は俺がガーガー文句言ってもどこ吹く風で車を走らせ、少し広いとこで止めた。森の中、日差しが木の葉に遮られ、風も通って気持よさげな場所だけど。 「なにココ」 「湖が見えるんだよ。そっち行くと」 「なんでそんなの知ってんだよ」 「鈴木と買い物した時に、ココで一休みしたんだ~。先輩たちは知らないから絶対バレない」 「すでにサボってんのかよっ!」 「まあまあ。僕ココで昼寝してるから、君ら遊んで来なよ」 「えっ」  なんだよ、なんで急にそんな神様みてーな嬉しいこと言うわけ?  嬉しすぎて俺、ちょいキョドった。ヤバい。 「つうかおまえも一緒行こうぜ」  誤魔化さねーと、なんて焦って心にもないこと言ってみる。 「う~ん、じゃあそうする?」 「お、おう……」  朗らかに返った声に、我ながら落ちた声が漏れる。運転席から後ろ振り向いて、姉崎がニッと笑った。 「こんなこと言ってるけど? 健朗」 「行くぞ藤枝」  唸るような声で言って丹生田が車を降りた。  え? え? なになに、急に不機嫌? 「あ、ちょ、待てよ、丹生田!」  慌てて俺も降りて追っかける。姉崎はついてこない。どうしようかちょい迷ったけど、いいや! と心決めて丹生田を追っかける。 「丹生田! どうしたんだよ」  でっかい背中が黙ったままズンズン進む。怒ってんの? なにを? ちょいパニクりつつひたすら追っかける。  するといきなり視界が開け、湖が目の前に広がった。崖の間際に柵があって、俺はそこまで走り寄る。 「うわぁ…」  柵を握りしめながら思わず声が漏れる。山の中でいきなりポカッとこんなデカい湖ってなに? すげえぜ北海道! 「倶多楽(クッタラ)湖と言うそうだ」  丹生田がぼそりと言った。 「アイヌ語でイタドリが群生する湖、という意味の言葉が由来だそうだ」 「イタドリって?」  いつの間にか隣に立ってる丹生田に問いかけると、少し笑ってる顔で、いつもの優しい目で、俺を見た。  もう怒ってねえみたいで、ホッとする。 「野草の一種で、食えるらしい。繁殖力が高く、アスファルトやコンクリートも突き破るそうだ」 「へえ~」 「ここはカルデラ湖というタイプの湖で、どの川にも繋がっていないというのが大きな特徴だということだ。透明度が高く、ヒメマスが釣れるらしい」  丹生田の淡々とした声。イイ声だなあ。 「すげえ詳しいな」  とか、からかうみたいに言ったけど、俺もだんだん嬉しくなってくる。 「……ウィキペディア情報だ」  天気良いし、湖面キラキラ光ってすんげえキレイだし。それに丹生田の声、ちょい自慢そうなんだ。 「なにおまえ、そんなの調べたの?」  俺がニヤニヤ聞くと、「まあな」と言いながら眉をしかめた。照れてんじゃねえよ、この! つうかカワイイぜっ! 「なーんだ、丹生田ってば俺以上にこの旅行楽しみにしてたんじゃね?」 「当たり前だろう」 「そーだな! あったり前だ!!」  ハハッと笑って、俺も言う。さっきまでちょい落ちてたのなんてすぐ忘れる。  なんだよ、こんだけなのにすんげえ楽しいじゃん! 「時間できたら、ヒメマス釣りに行くか」 「いいな! ヒメマスってどんなか知らねーけど。釣りもやったことねーけど」 「教えてやる」 「うっそマジで? やりぃ!」  そっからダラダラ、どうでもいい話する。  葉擦れの音しかしない、誰もいないトコで、丹生田と二人。  お日様に照らされた湖はキラキラきれいで、イイ風来るし、雰囲気超イイんだもん。  これでテンション上がんなきゃ嘘でしょ!  なんかはしゃいじまって、そこらの枝とか眺めてたら、「これはクヌギかな」なんて丹生田が言った。 「え、木の種類とか詳しいのかよ」  子供のころおじいさんと山歩きしたとかって言うんで、「じゃコレは?」なんて聞くと答えてくれたり「それは分からない」とか言ったり。そっからなんだか自慢げにアウトドアの話とかしてんだけど、めっちゃカワイイんじゃね?  なんて感じでめちゃアゲアゲになった。 「そろそろ戻るか?」  とか言ったのは、ちょい正気に戻って、やっぱ買い出しだし先輩たち待ってるし、なんて思ったからなんだけど。  なんかデートっぽい雰囲気になってて、超離れがたいけど(イカンイカン)とか自分に言い聞かせまくって言ったんだけど、ゆっくり車まで戻る途中で「この草は食える」とか言うから「えっ! こんなモン食えンの!?」なんて聞くと、「ああ、わりと旨い」なんつって! さらにテンション上がりまくる!  丹生田が途中で森ン中入ってくから「なに?」とかって追いかけて、変な虫いて「うわっ!」なんてビビったら「大丈夫だ藤枝、もう行った」なんてすぐ助けてくれたりして。 「超さんきゅ。助かった~。んでなに?」 「あれも食える」  なんつって教えてくれたりして「マジでめっちゃ詳しいな!」とかって自然に尊敬しまくったりして。  さっき三分で通り抜けた道だけど、未練がましいわ我ながら、とか思いつつ、ことさらゆっくり歩いたりして。なんだかんだ車に戻るまで、三十分以上二人でいた。  姉崎は昼寝どころか、めっちゃマジ顔でモバイル弄ってて、丹生田がグーでアタマ叩くまで俺らのこと気づかねえくらいの集中だった。  ぶちぶち文句言いながら運転再開した姉崎は、ときどき集中モードに入ると周りの声も聞こえなくなるらしい。それは俺も知ってるけど、いきなり殴って正気に戻すなんてしたことねえ。  丹生田がコイツのこと雑な扱いしてんの見てたら、なんだか笑っちまって、そんでちょいホッとした。  結局俺らは苫小牧まで行って買い物してから昼飯食ったりして、なにげにまったりしてから鈴木旅館へ戻ったのだった。

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