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宿探検
宿に帰って大浴場に行ったら、大熊先輩がすでに入ってた。
「よう、どうだった? カワイイ女の子いたか?」
「またおまえは……そういうことを」
ため息混じりの庄山先輩が「いい加減に女のことばかり考えるのはやめろ! 他に考えることは無いのか!」なんて説教始まったが大熊先輩がヘラヘラ流してて、まあいつもの風景なんで、みんな軽くスルーしてる。
そんでその日も、メシ食った後、誰が酒買ってくるとか、つまみどうするとか、飲みが始まる流れになって
「ちょい散歩してくる~」
とかってスルッと部屋を出た。
「どこ行くんだ?」
「宿ン中探検~」
「じゃあ厨房行ってつまみもらってこい」
小谷さんが言うんで「いやいや」とか手を振る。
さっき他の客の食事終わってからだって言われたじゃん、なんて言う前に岡部さんが「まだ早いんじゃ無いです?」なんて穏やか~な声で言って、小谷さんは「そうだったか?」なんて早速ビール飲んでたりして。
まだ冷蔵庫に残ってたんか、連日よく飲むよな、なんて思いつつ、できたばっかの渡り廊下通って本館に入った。
飲みも一瞬楽しいけどすぐ寝ちまうし記憶飛ぶし、そもそも酒ってあんま好きじゃねえから連日飲むとかキャパオーバーな俺と違って、丹生田は酒強いし、保守部員だからってだけじゃなく、マジで色々世話になってる小谷さんには無条件に従う。
ココ来てからずっと小谷さんには気使ってるぽいのに邪魔しちゃいけねえ気がするし。
てか今日の丹生田、とか思い出し笑いでニヤニヤしちまう。いつもとちょい違う感じで、んでもやっぱカッコカワイかったよなあ。
「藤枝」
丹生田の声がした。
妄想で声まで聞こえるとか、ちょいちょいヤバい域に入ってねえか? とか思ってたら肩をガシッと掴まれた。
「え?」
あれ、リアル丹生田だ。しかもちょい必死ぽい顔。てか妄想じゃ無かったかあの声。
「どした?」
丹生田って動じなく見えるけど、実はなにげにガラスハートで、ソコが可愛いんだけど心配にはなる。
「藤枝どうした」
なのに逆に聞かれた。
「は?」
「どこに行く」
「え、いや、俺そこまで酒好きじゃねえし。飲みもめんどいかなって」
「それだけか」
「え? うん、そんだけだけど」
「……ならいい」
とかって言いつつ、自然に宿の中探検一緒にする感じになった。
壁に写真並んでるから、なにげに見てたら「あっ、コレってこの旅館なんじゃん!」気づいて思わず声を上げる。
鈴木旅館が出来た昭和二十年頃、そっから年代追ってくみてーに額に入れた写真が張ってあった。
「へぇ~、最初はこんなちっちゃかったんだ。冬ってこんな雪つもるんだ」
思わず微笑んじまいながら見てたら、丹生田もすぐ隣に立ったんで目をやると、眉間に皺寄せて写真を睨んでる。
「なんだよ、こえー顔して」
「コレは……鹿か?」
「えっ、マジ?」
昭和何年かな? 新しい建物出来て、みんなで記念写真とってる後ろ、林の中に……いる!
「いるいる、コレ角だろ? マジで鹿かあ~! すっげー! 俺らも見れるかなあ」
「後で鈴木に聞いてみるか」
「そだなっ!」
「……藤枝」
「ん?」
「明日は……釣りに行かないか」
「釣り……あっ、ヒメマスか!」
「……そうだ」
てことは……丹生田と二人っきりになれんじゃね?
グアァァァァッとテンションが上がった。
「行こうぜっ!」
天井にグー突き出しつつ声上げる。
したら通りかかったおじいさんが眉寄せてこっち見たんで、やべやべとくちつぐむ。
前に食堂で騒ぐなって怒られたし、ダメじゃん。せっかく丹生田がコソッと言ってくれたのに、なんて思いつつチラッと見たら、いつもの優しい目でこっち見てた。
ううう、あがったテンションは下がらねえ。どうするこの勢い、どうやって勢い殺す?
なんとなく救い求めて周り見回す。
ん? アレなんだ……?
「あっ!」
まさか……? いやでもきっとそうだっ!
上がったテンションの勢いのまま、ガッと丹生田の腕つかんでグイグイ引っ張る。
「なんだ、藤枝」
「あっち! アレってもしかして、つかたぶん」
ズンズン廊下を進む。この宿にありがちな三段だけの階段上ると、廊下はそれまでの倍以上の広さになった。てか既に廊下じゃねえ、広場だって!
自販機とかガチャとか、なぜかUFOキャッチャーも一台だけある。そんでそこにはやっぱり!
「……なぜ卓球台が廊下に」
「やろうぜ卓球! 温泉来たら卓球だって誰か言ってた気ぃするし!」
さっそく台の上に放置されてたラケットを手に取ると、丹生田もガッシリとラケットをつかんでニヤリと笑った。
うおーっ、かっけぇー!
「行くぞ」
身構えた丹生田がサーブ!
できずにラケットはスカッと空を切り、球はタンタンターンと台の上を跳ねた。
「スカって! 音した今!」
腕の振りが鋭すぎて音聞こえた気がした、のに空振りって! 腹抱える勢いでゲラゲラ笑う。
「あんだけカッコつけて、スカって!」
「……球技は苦手なんだ」
とかって眉寄せる丹生田がめちゃカワイイ! テンションはまたまた上がる。
「よっし見てろよ! オレ様の弾丸サーブをっ!」
カシーンとポーズつけて、でも失敗しないようにそっと打つ。無事丹生田サイドに飛んだ球を、鋭い目で睨んだ丹生田は、腕の振りも鋭く、また空振りした!
「またー! ありえねえ!」
ダメだ、丹生田が可愛すぎるっ! 自然に悶えちまう!
ゲラゲラ笑い続けてるから、こっちの球もヘロヘロになるし、丹生田はムキになって鋭く空振りし続けるし、もう笑いが止まんねえ!
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