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第4話

-バラ科モモ亜科スモモ属-  お父さんが。深月はそう言った。父親か。深月は正直、マトモじゃない。俺たちの生き方そのものがマトモじゃない。だが深月はそういう「マトモじゃない」とは違った。 「大丈夫か、月下」  体調でも崩したのか。…俺が便所に連れ込んだから?様子を見る。顔に血が付いているため拭ってみると乾いていて落ちなかったし、顔を逸らされてしまう。どうなってるのか。唇も赤い。荒れている。なぞると身体が拒むように跳ねた。雨足が強まっているため、早く車に戻りたい。肩に触れると胸元を掴まれた。浅い息の中に声が漏れている。なんで縛られてんだ。いや、俺も縛ったけど。縦結びになっているリボンを解く。拘束されたままのネクタイらしき紐を解くより先に雨がきっと強くなる。 「っ…ぁ」 「つれぇかもだけど車までは歩いてくんねぇか」  震えながら月下は頷いた。胸元を掴んだまま、ゆっくりと歩く。ふらふらしていた。1人で歩かせられず、身体を支えるが、数歩でもう歩けなくなったのかその場で座り込もうとして俺は慌てて腕を掴んだ。また上がる嬌声。俺を振り払おうとするけどそんな弱い力じゃ抵抗になってない。抱きとめて引っ張る。触れるたびにこいつは力を失い俺にしなだれかかってくる。誘ってる?のか?ウィーンと何か遠くで低い音が鳴っている。大して気にはならなかった。 「なんだそれ。置いて行けってか」  月下は頷いたように思えたが、置いていくと本気で思ってるのか。そのまま歩けば1分もかからない場所まで5倍。俺の胸にしがみついて、また浅い息を繰り返す。車に身体を預け、後部座席を開いてしんどそうな身体に手を添え中に押し込む。 「す、……っみ、ま…、……せッぁ、」  ぜぇぜぇ息しながらやっと言葉を発した。微かに小さなモーター音が聞こえた。 「知るかよ」  後部座席の扉を閉めて俺は運転席に回る。タイミングよく強い雨が降り始める。フロントガラスを叩く音より近くに感じる、後ろからの艶めいた息が居た堪れずカーラジオを点ける。モーター音はまだ消えない。 「電話、鳴ってねぇ?」  後部座席に横たわる月下は俺を熱っぽく見つめた。これは結構重病かも知れない。やべぇと思う半分、不真面目な欲求が芽生えてきているのも否めない。 「そ、…め…さっ、っあッぁっ」 「それ、風邪じゃねぇよな」 「く…ンっ、くす、……り、飲み、はぁッ」  くすり?薬って言ったか?変な薬か。どうしてそういうことをする。下っ端に売らせることはしても手前らで使うのは法度も法度だ。出来ることなら下っ端にだって。電話を掛ける。出たのは。 『染井くんか』 「…っ津端組長、夜分遅くにご無礼つかまつります」 『深月に用だろう。なんだ』  深月に用なのが分かってるなら代われよ。ハンドルを指で叩きながら応対する。予定のない接待みたいだ。まだワイパーも点けていないため窓は小さな滝のようだった。 「月下に、使ったのは」 『催淫剤だな。…楽しんでくれているかな』 「そうでしたか。とても、楽しませてもらっています。深月にお伝えください、この大馬鹿野郎と」  電話を切って助手席に放る。深月はすぐに携帯電話を人に預ける。本人が持たなきゃ意味がないことを理解しない。常に周りに人がいる。まさか津端まで深月を囲うとは思っていなかった。お父さんが。深月の浮ついた顔。まさかな。似てない。いや、そう思うと少し似ている。でも違うだろ。 「ホテル行くぞ」  縛られたまま身を丸めて震えている。汗が光っていたため冷房を強くした。近くのホテルを調べて、溜息を吐く。モーター音の正体が何だか分かってきてしまって、また溜息を吐いてから発車する。隣を走っていた車の助手席に柴犬が見えて、その犬が俺を見つめたものだからなんだか、罪悪感が突然襲った。違う。取って食おうって話じゃない。ハンドルを切ってホテルの駐車場に車を停める。…ラブホテル。  ノり気じゃない月下を後部座席から引っ張り出して今度は肩を抱く。傘に入れなきゃならないから大変だ。ひくひく身体を震わせるのが可愛らしくて仕方がない。この男が、気に入らなくて、それで、惚れた。(さく)に見せる穏やかな顔も、深月に接する時の柔らかな顔も、たまに見せる厳しい顔も、俺に向けてくる気まずげな態度も。部屋に連れて行くまで月下は俺にしがみつく。俺は豪雨でずぶ濡れ。歩きづらいし離したかったが触れたら逃げてしまいそうで俺は触れないように苦労した。エレベーターに乗ると俺は壁に押し付けられて、月下が首に鼻を近付けた。湿った息にくすぐられる。キスされそうになって直前で思い留まったらしい。 「キス、しろよ」  虚ろな目が濡れて光る。俺の顔を冷たい手が包み込んだ。唇に血が乾いている。触れそうになって、エレベーターが開く。間が悪い。大袈裟なくらいに跳ねる肩を押さえ込んで抱きしめ、部屋に辿り着く。壁に手を付いて月下は床に座り込む。ベッドに寝かせてやりたくて、腕を取る。立ち上がると上手く膝に力が入らないようで俺の胸に縋った。引っ越しの荷物運びみたいにおそるおそるベッドまで月下を歩かせた。 「寝てろ。ったく…」  疲れた。数分で出来ることが倍かかっている。身を小さくしている姿をちらっと見てから冷房の設定をいじる。深月は何を考えてるんだか。津端か?。電話が鳴って、ディスプレイには(さく)の名が表示されていた。 『八重?雨すげぇけど、大丈夫か?』 「あぁ。今、月下連れてきたところ。なんか深月は組長と話があるとかないとかで残ったけど」 『…そうか。いや、分かった。すまなかったな』 「いや?(さく)が謝ることは何もねぇけど…」  生まれたての子鹿みたいに肘を立て、俺を見る。何か言うことあるのかと、電話を月下に向ける。月下は蕩けた目で首を振ってからベッドに落ちた。 『八重?ヨシか?』 「あぁ、俺。月下ちょっと疲れたみたいなんだわ。先寝かせる」 『分かった。じゃあな』  二言三言適当な話が続いて電話が切れる。俺はずぶ濡れだしシャワーでも浴びるかな、ってところだった。 「そ…め、い…さ……っ」  月下に呼ばれてシャワールームに行きかけた足が止まる。 「水でも飲むか」  冷蔵庫から冷えた水を出す。そういえば拘束を解いていなかった。血の付いた口元にペットボトルを当て、傾ける。白い喉仏が動いて、飲み切れない水が口の端を伝う。だから指で掬い上げ、雫を舐める。犯したい。浮かんだ欲に頭を振る。モーター音が聞こえる。背が弓なりにしなって、その後引き攣ったように蠢いた。イッたんだとすぐに分かった。抱きたい。犯したい。欲が正直になってきている。拘束されたネクタイを解くが俺も冷静じゃなかった。手が滑って、指は上手く回らない。やっと取れたというのに赤い痕をつけた両手はそのまま投げ出されている。 「下、とっ、て…っ、取って……下っ…取っ……」  聞いたことがない甘えた声で頼まれたら断れなかった。のたうつ身体からベルトを外し、スラックスを下ろす。やたらと膨らんだ下着を捲ると、根元を縛られて腫れ上がった茎。鬼畜だ。イッたと思った場面が幾度かあったが、それも全て我慢させられていたということか。控えめなモーター音が残酷だった。下半身を揺らしてシーツを蹴る。根元を縛るベルトのような物が禍々しい。息が肌を掠めただけで泣き叫ぶように喘ぐのが痛々しい。知恵の輪みたいな金具を取り外す。赤黒く腫れたそれが小さく破裂して、白い液を吹く。眉根を寄せて、長い睫毛の下で伏せらた目を細め、放出の快感に酔っている。俺の下腹部も張り裂けそうだった。ひとつ作業を終えると今度は腿にかかるピンクのコードが気になった。 「これは」 「なっ、ぁんっ…だめ、や、っめて…くっンんっ!」  ピンクのコードを引っ張ってみる。何かが抜けた。卵型の無機物。モーター音を鳴らし続け、内腿にリモコンが貼り付けられている。悪趣味だ。深月か? 「とりあえずシャツのボタン外すわ。そしたらもう寝ろ。俺は何も見なかった。あんたも何もされなかった。いいな?」  宣言どおりにシャツのボタンを外していく。素肌に散った鬱血の痕。頭の中がガンガンした。怒り。津端に?。呆れ。愚弟に?。焦る。臍の周りにまで執拗に痕が残っている。綺麗な肌だった。引っ込めようとした手を取られ、月下の頬へ持っていかれる。 「っあぅ、っ」  月下の身体が跳ねる。触れるだけで強烈に感じるらしかった。下着は色を変えている。 「そ、め…さっ…っンん、っ」  (さく)は俺の大事な兄貴分だ。咲(さく)が命じた。深月にはさせたくない、風信にも頼めない。だから俺は腹括った。仕事である以上、手は出したくない。はっとしてその弱すぎる手を振り払ってしまった。 「シャワー浴びてくっから」  冷房で濡れたシャツやスラックスは容赦なく寒かった。身体の奥から炙り出された粘っこい熱がその冷たさと相容れない。 -ハナミズキ-  お父さん、あの人のこと考えると、腹の奥がまた疼くの。  津端さんが段々と息切れしてる月下さんのお尻舐めてた。男性器のフィギュアみたいな、巨大なアイスみたいなおもちゃ突っ込まれて、盛り上がったその周りの薄紅色の膜を綺麗に綺麗に舐めてた。 『深月もやるか』  ボクは首を振った。ボクはポケットに入れていた金平糖を月下さんの口に放り込む。血が付いた唇を舐めとって、月下さんの口から金平糖を貰っていった。糸を引いては切れていく。目的がズレていって、金平糖を食べるためじゃなくてどれだけ糸を引けるかに一生懸命になってしまって、金平糖は溶けてきてしまったし、ちょっと鉄の味がした。 『これは何をしてるんですか』 『染井くんを労っているんだ。深月をここまで面倒看てくれて、ありがとうなって』 『エドさんへの、プレゼント?』  津端さんは見たことがないくらい優しい顔で笑った。本当にお父さんなのかな。ボクはたまたま持っていたお菓子の詰め合わせを飾っていたピンクのリボンを前で結び直された手に巻いた。秋桜(あきお)さんやエドさんに何度も教えてもらってもボクは上手くリボンを結べた試しがない。月下さんや風信(かぜのぶ)さんが何度かその後も新しくやり方を教えてくれたのにいつもなんでか変な結び方になっちゃうの。 『美仁(よしたか)、染井に抱かれてくるんだよ。お前があの忠誠心の高い男を惑わしたんだから』  乳首を(つつ)かれて月下さんは女の子みたいに高い声をずっと出してた。漏らしたみたいに透明な汁を垂れ流して、でもなんか金属の付いた革製の小さなハーネスみたいなの巻かれて、腫れ上がっていて可哀想だから撫でてたら苦しそうに泣き叫ぶみたいで、つまらない人だったけど楽しい人だなって思った。 『エドさんは惑わされた?』  そういう風には見えなかったけどな。だってボクはエドさんが本当は月下さんのこと求めてるくせにわざと意地の悪い態度とって、それを月下さんが露骨に嫌な顔しながら嫌味で返すのが楽しくて、好きなんだもん。むしろエドさんが積極的に月下さんに惹かれた感じがするけどなぁ。 『こいつはな、秋桜に抱かれるつもりがどこで間違えたか、染井に抱かれたどうしようもない淫乱なんだ。また遊んできたらいい』  津端さんは月下さんのお尻の穴に入った男性器のおもちゃを強く押し込んではまた引いた。 『っぁ、はァ、ァ、アあ、やあああ!』  白い肌が赤く染まっていく。綺麗だな。溶けて表面の色が落ちた金平糖が月下さんの中の甘い蜜を纏ってぽとぽと落ちていく。全部白くなっちゃった。 『諦めろ。秋桜はお前の手に負える奴じゃない。お前みたいな、万年発情期の好きモノ穴の雌が手に負えるようなやつじゃ…』  初めて月下さんの顔に違う色が見えて、心臓が下に引っ張られる感じがした。腹の奥がやっぱ小さく痛むけど、月下さんの中から滲んできたみたいな別の色を見ていたら喉が渇いた。心臓が下に引っ張られる分、胸が寒くなって、ボクは月下さんを抱き締めた。猫みたいに撫でてたいけど。津端さんは雌犬だっていう。月下さんの面白さに落ちたボクの鳥籠の中で囀る小鳥だっていう。 『月下さんが秋桜さんのこと好きなの、知ってるんですか』 『どれだけ見てきたと思ってる。こいつはな、わしの寝首を掻こうとするほどヤツに惚れてるんだ。姻戚に。嫁の兄だ。つまり義兄。それどころか惚れた男の弟分に惚れられ、まさか犯されるなど…』  ボクは月下さんの頭を抱いて、撫でた。戒められた陰茎がピクピク跳ねる。普段つまらないのに面白いなぁ、月下さんは。また涙を溢して唇だか舌を噛んで血がダラダラ垂れてくるからボクは顔中にそれを塗りたくってから舐めとった。甘かった。  甘かった。ボクの胸に頭を押し付けて啜り泣く月下さんは、なんだかボクがご飯もトイレも着替えも世話してあげなきゃいけないんだって思ったくらいに弱く小さかった。それなのにエドさんの胸の中に預けられた姿が惨めで、ボクもまたぎゅってしたいなって思った。腹の奥がきゅっと締まった感じして鈍く痛い。でも本当に痛いかというと、痺れた感じがして、浮く感じもした。トイレ行きたくないのに耐えきれない感覚。制御出来ない。パンツの中がいきなり冷たくなって、ゴムを捲る。この歳で、失禁?でも違う。部分的に濡れている。頭の中が月下さんのことだらけでなんだか分からなかった。ただ月下さんが嫌がりながら口の中漁られる光景と、女の子みたいな声出しながら陰茎から汁垂れ流す姿と、口から唾液でサラサラになった血が何度も巡って焼き付いている。病気かな。精巣癌?前立線癌?白い液体がパンツを汚している。とろとろ溢れて、まだ出ている。怖いと思った。月下さんの楽しい姿が脳裏をちらちらする。そしてパンツがまた汚れた。月下さんのことを忘れなきゃ、止まらない。でもあの人の姿がちらちらして。秋桜さんを切なく見つめて、苦手なエドさんに縛られて、それでボクのところに来るしかない姿が、なんだか、ボクは本当に鳥籠に入れてみたくて。でもさっき、エドさんに渡しちゃったんだ。ぼろぼろって目から水が落ちる。ボクは病気なのかな。腹とか膝に水が溜まるみたいに、もしかして、ボクは。 水がまたぼたぼた落ちた。、人間は目から塩水を出す。さっき月下さんだって垂らしてた。でもボクにはそれがなかったから、やっぱり病気なんだ。死んじゃうんだ。月下さんに会いたい。月下さんに会いたくて、ボクは身体中の水を出して、腹を痛めて、パンツを汚して死んじゃうんだ。電話を握る。きっと出てくれる。エドさん。あの人は月下さんのこと、好きだ。邪魔しちゃいけないんだ。エドさんは月下さんが好きだから。好きって何?。月下さんじゃなきゃダメなの?縛り上げさせてくれる人はいっぱいいるのに?…ボクだって、おやつ置かせてくれる口はいっぱいある。でも秋桜さんはなんか違う。エドさんとそんなこと考えるのはなんかダメ!って気がする。風信さんも、あまりそうしたい気にならない。やっぱり月下さんの顔がいい。嫌がってるのに結局ボクに流されて、全然慣れてくれない感じ。つまらない人なのに。慣れちゃえば楽なのに。気に入らないことあるとすぐ手を洗うのも好き。荒れた肌のざらざら感とすべすべしたところの感触とか。荒れすぎてちょっと血が滲んでるところ触るのが好き。クリーム塗りたてのペタペタの吸い付く手も好き。几帳面な爪がエドさんと嫌味言い合って、苛々しながら噛むのも好き。噛んでギザギザした爪を触ると、ボクのこと宥めるから。細くて節くれだった指を食べたい。骨までしゃぶりたい。また腹の奥がきゅんって痛くなる。お腹痛いよ。言えば月下さんは焦った顔してきっとボクを看病してくれるのに。パンツの中が腫れていく。蛹みたい。ボクは月下さんの嫌がる顔を思い出しながら、股間を膨らませて、目から水を垂れ流して、パンツを汚したまま死ぬんだ。嫌だなぁ。秋桜さん、エドさん、お父さん。お父さん、ボクは病気なんだ。 -バラ科モモ亜科スモモ属- 「ん、ンん、ンッ、ふ、ぅんン」  曇った高い月下の声が聞こえて、苦しそうだから髪を拭く手を止めて部屋に戻った。クーラーの音と雨音が落ち着くが、月下の様子は焦る。シーツを噛んで月下は忙しなく手を動かす。左利きだったか?いや、右手だったぞ。え、じゃあ、あれか、自分で擦るときは左ってことか?それは、ヤバいな。床が軋むと月下は、はっとして俺に気付いて手を止めてしまった。いや続けろよ。いいだろ、男同士なんだし。俺は何も見なかったフリをしてテレビを前に座り込む。アダルトチャンネルを避けて、音量を上げた。また始まる甘ったるすぎる声。 「ぁっ、あんン、っな、ぁァっ」  暫くするとなんか、少し変わってきて俺はたまげる。思わず振り向いてしまった。ベッドの上で腰を高く上げ、指が入っていく。頭が熱くなって、俺が縛り上げたあの日、思わず激情に任せて突っ込んだところ。中指を入れて、泣いてるみたいに鳴く。揺れる腰。赤くなっている。誰かに叩かれた?スパンキング。催淫剤を仕込むような奴だ。 『こんなとこで感じるのかよ』  縛り上げて、普通は突っ込むところじゃないところを女みたいに犯しているのにもかかわらず、張り詰めさせていた月下を罵った。それは月下にとってはよくあることだったのか。 「っ…、はっ、んん、く…ぁァッ」  抱きたい。今度は犯すんじゃなくて。でもこんな状況は。 「そ…め…っぁん…、ふ、ぁあっ…!」  釣られて、俺はよたよたとベッドの上で苦しみよがる月下に近付いた。現状に甘えて、また1人気持ち良くなるつもりか。呼ばれて直視。潤んだ目が俺を見た。 「なんだ」  俺の目の前で首を伸ばして胸を突き出し、痙攣した。呼ばれたのは気のせいか。月下は指を噛み、また尻をいじる。白いシーツについた赤に目がいった。 「やめろ、あほ」 「はひっ、ぁんあ、」  血が出ている人差し指を掴む。猫みたいな声を上げて、俺の手を解こうとするけどまた噛むだろうからその前に俺が滲んだ血を舐める。指が俺の舌を嫌がった。傷口を舌先で撫でる。 「助けてって言えよ」  開きっぱなしの口が小さく動いて唇を噛む。頭を振り、細い毛がしゃらしゃら鳴る。涙が落ちてその筋が光るのが綺麗だった。 「じゃあ、抱く」  わざとベッドを軋ませ、膝を乗せる。月下は苦しそうに呼吸するだけだった。這いながら月下に覆い被さり、月下は赤い顔で俺を見上げた。浅く熱い息は相変わらずで、肩を上下させ、諦めたように目を瞑る。俺は白い腿を撫でる。揺れて、震えて、また汗ばむ。指の入っていた窪みから手をどかし、俺は少し腫れているように見えた薄い色の粘膜に柔らかく触れた。ひくひく蠢いている。気怠そうに顔を上げ、かち合った目に、求められていると感じた。すでに俺の俺自身は惚れたやつの壮絶な色気に触らずも勃っている。このまま視覚だけで…。有り得ない話じゃなさそうだ。 「入れるから、な」  噛んだ手を掴み、もう片方の手で腰を押さえる。先端を蕾みたいに綺麗なそこへ押し当てる。手加減したかったのにふわふわになってる中に俺の理性は粉砕した。 「あ、ああああっくぅう!」  逃げようとした腰を追う。腕を引いて力尽くで貫いた。今までにないほど波打った身体を後ろから抱き締める。 「いい?」  らしくなく俺も甘えた声をしていた。腰を打ち付けるたびに腕の中で叫び、暴れた。 「いやぁ!んぁああああ、いっあァ」 「月下」  頸や肩に唇を落とす。ナカが俺を引き絞り、食い締める。腰を動かすととろけそうな内壁ごと骨まで溶けそうですぐに動けない。 「だ、め、だめ、やだぁ、ぁはァンんッああ…っ」  潔癖な月下の唇からだらだらと涎が垂れて、茎からもとろとろ粘液が漏れている。糸を引きながらどっちつかずにシーツと先端を繋ぐ。手を伸ばすと、嫌だ嫌だと子どもみたいに頭を振るのが可愛くて仕方がない。この男を思ったよりも、俺は好いている。真面目で傷付きやすいくせタフな男。同じ男に従い、同じ男のために汚れる。深月を見守る顔が好きだ。咲(さく)に微笑む顔が好きだ。風信(かぜのぶ)に向ける遠慮のない顔が好きだ。 「だ、め…もぉ出な…っああああああ!」  深く打ち込む。可愛い。月下が可愛い。耳朶を齧る。短い間を何度もしつこく穿つ。短い間隔で月下のそこは俺を締める。大きくうねり、ナカは柔らかいのに強い力で奥へともっていかれそうだった。ベッドが軋む。 「ぁっぅうううっ、ひっ」  またイったらしかった。シーツに爪を立て、俺の下から這い出ようとしていたが、俺は放せそうにない。柔らかくきつい粘膜に根元を搾られると俺も限界だった。月下の引き締まった尻を潰すように密着してからゆるゆると出し入れを繰り返す。奥の奥を汚したい。月下のナカを汚したい。奥も浅いところも塗り込める。 「あっ、あっ、あ、あ、」  俺のが脈打ちながら精を吐き出しているのを感じているらしく、そこも同じタイミングで閉じようとする。 「月下。まだ足らないなら、俺を利用しろ」  身体を投げ出している。まだ四肢が震えていた。何かしたい。だが何も出来ない。ベッドを離れてソファに座る。頭が冴えはじめると、まずいな、ってことと深月どうするかってことでいっぱいだった。  電話が鳴る。月下を起こしてしまいそうでびっくりしたが電話を探す。テーブルの上で光っている。 『あ、八重?』  咲だ。 「ああ、俺」 『深月さ、なんか津端さんのところ出てきたらしくてよ』 「ん、ふ」  咲との電話中、目の前に月下が迫る。俺の股の間に膝を入れ、乗る。俺は腰にタオルを巻いていただけだった。タオルを捲くられ、その下のものをしなやかな指が包み込む。俯いた顔は見えなかった。 『飯食ってた感じか』 「~っ、違う。何、かあった、のか…?」  几帳面に神経質に、潔癖な手が俺のを擦る。丁寧に、労わりながら。それが拙い刺激なのに俺はこの男に惚れているもんだから―。 『深月のことなんだけど』 「っみ、深月がッ…どう、した」 『あいつ、こっち掛けてきたんだけど、どうもケータイ置いてきたらしくてな。今近くのコンビニにいるらしくて。あと少ししたらまた掛かってくんだけど…、今どこ?』  温かい。月下の口の中に入っていく。あの潔癖症が、忌々しいはずの俺の雄を舐めてる。先端を舐めてまた勃ち上がる。 「あッ…っ、今…」  今どこだ?今俺は、俺たちはどこにいる?月下は俺の股から口を離し、俺に乗る。電話を持っていない空いた片手が持っていかれ、月下の色付いた肉粒に導かれていく。その間も俺の股のものは擦られ続けた。 「ぅんっ、」 「お、い…」 『八重?』  咲の声が遠い。月下とひとつになる。 「ぁっ、んんん、」 「っはぁ…ッ」 『…八重?お前なぁ。あれならオレが行くけど』 「ッ大丈夫だ。ホテ…ル、フリージ…アッく、」  髪がさらさら鳴って、電話に月下の耳が迫った。 『ホテルフリージアだぁ?…深月にそんなとこ行かせらんねぇな…』 「い、ま、家なん、だろ?」  締め付けが強かった。突き上げたい衝動。今すぐ立場を入れ替えて、後悔させてやりたかった。 『息子が熱出してなぁ。風信に頼むわ』 「い、いい…ちょっと、っ~」 「ああっああ、んンんふ、ぅっ」  耐え切れず突き上げると、うねりが巻き付いたように締め上げ、電話には多分聞こえていた。俺も慌てて月下の首に顔を埋め、声を押さえる。咄嗟に電話を遠ざけた。 『わかった。深月には言っておくよ。頼むな』 「ああ」  おやすみ。電話が消えたと同時に月下がイッたのが分かった。気持ち良すぎてトびそうになる。電話を放り投げて、月下の細い腰を固定し勢いよく突き上げた。なんだか咲の声でイッたみたいなのが、少し気に入らなかった。 「あっ!あっ、!だ、めイッてる、イッてま、…ああッやめ、ぇ」  目の前の肌を舐める。何度も唇を当てる。砂糖とは違う甘い味。好きだ。また奥で果てる。

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