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第11話 思い、がけなく 二
思い、がけなく 二
「 惜しいな、もうすぐ宵山なんだが 」
ホテルの地下駐車場から車を出しながら真名彦がそう言うので、
「 何?それ 」
と聞くと、
「 祇園祭だ、京都の大きなお祭りだよ 」
答える。
「 へーそうなんだ 」
祭りに縁の全くない俺にはそれ以上問うこともない。
「 ジャズフェスも祇園祭の前夜祭みたいなつもりなんじゃないのか?」
「 そうなのかな 」
それ以上俺に興味がないと分かると苦笑しながら、
「 朝飯、パンでいいか?」
と聞かれたので
「 なんでもいいよ 」
と返事すると今朝の追い討ちをかけたあの行為が効いてきて急にお腹が空いた。
通りの事は全くわからなかったけど、ビルが並ぶ大通りから裏通りに入る。
「 役所の裏に美味いコーヒー飲ませる店がある 」
と連れていかれたのは、
朽ち果てそうなほど古い喫茶店だった。
え、ここ?
心の中で呟き跡を尾いて入ると、
小さい店いっぱいに焙煎しているコーヒーの香りが広がっていた。
中は割と小綺麗で、ホッと安心しながらカウンターに腰掛けると、
目の前の小さなお爺さんが、
いらっしゃいと小さい素振りで示した。
「 モーニングブレンドとセットで 」
何にする?とメニューを真名彦が指差す。
「 玉子サンドか、ミックス?
玉子久しぶりだな、俺玉子 」
「 ミックスと玉子で 」
と伝えるとおじいさんは意外と機敏に早速用意を始めた。
「 よく来るの?」
「 あぁ、京都にいる時にはな。
最近は朝米が食べたいことも多いから1週間に2回くらいだけどな 」
俺って好きな人の生活何も知らないんだな。
考えたことがしっかりと顔に出てたらしかった。
「 お互い様だろ、今からわかれば良いさ 」
「 なんでわかったの?」
「 ジュンヤの顔なら小さいときからずっと見てるから 」
濃厚な朝を迎えた割に家族みたいなこの会話、なんだろう結構嬉しいかもしれない、一緒に朝飯食べるのも……
子どもの頃はよく母親が作ってくれた玉子サンドを久し振りに口にできすっかり満足してハンニバルまで送ってもらう。
車を降りる間際に、
「 打ち合わせ何時に終わる?」
と聞かれたので、多分音を合わせるのにどのくらいかかるか、吹くのは2曲くらいだから3時くらいには終わると思うと答えると、
「 そうか、なら4時ごろ又来るから、それとジュンヤ、その格好で吹くのか?」
「 うん、まさかステージあると思ったなかったし、外だからさ 」
じっと俺を見つめて少し微笑んだ真名彦を不思議に思いながら、後でと約束をして車を降りた。
昨日と同じ路地を入ると店の前が今日は賑やかだ。数人のいかにもジャズマンという風体の人たちが談笑していた。
俺も早速挨拶しながら仲間に入る。
キナトが嬉しそうに俺を紹介するが殆どの人が、知ってるよと
俺の演奏をどこで聞いたかと話しかけてくる。
やっぱり参加して良かったよ、
ありがとうキナト。
そしてドイツに居る碓氷たちにも感謝だな。
思いがけない出会いにワクワクしてきた。
借りるサックスを選び、軽く合わせてみると、繰り返すごとにリズムがあってきた。
昼飯を挟んでからは結構詰めて何曲かやってみる。
フェス事態は10曲近くセッションするが、俺の出る曲は2曲に決まった。
フェス開始まで後3時間ほど、キナトがこれからどうするか聞いてきたので、真名彦に連絡する事を思い出した。
「 俺、知り合いとこの後会う約束してるから 」
と伝えるとキナトはガッカリしたように頷く。
「 じゃあ、5時には出町柳のデルタに来てもらえますか?場所はわかりますか」
「 あぁ、わかった。サックスは俺が持っていくよ、それに京都に詳しい人だから大丈夫送ってもらうから 」
「 そうですか 」
「 なんか、小犬みたいなだなキナト。そんな哀しそうな顔しないでよ 」
「 でも、明日にはドイツ帰っちゃうんですよね、今日しかいっしょにいられない、そうだフェス後の打ち上げは絶対に参加してくれますよね 」
「 勿論!楽しみにしてる 」
と言いながら真名彦の顔が俺の頭の中を横切った。
一緒に居られるのも明日の昼過ぎまでだ……
さっきまでジャズフェスに参加する事を楽しみにしていた。でも、
良かったのか?
真名彦に会いに来たのに……これって、
店を外、日陰になった建物の脇、スマフォを弄る指が止まった。
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