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それが恋だと気づくまで――②

***  親父の再婚で穂高が家に来てから、ずーっとイライラしっぱなしだった。  反抗期を絵に書いたような自分とは違い、従順に言うことを聞く穂高を、親父はとても可愛がっていた。そこに穂高の母親が加わり家族ゴッコが形成されている様を見るのが、本当に嫌で堪らなかった。  何もかもすべてが嫌になった時、穂高が俺の頬にキズをつけたんだ。  兄である俺に懐こうと必死になっていたヤツが歯向かってくるなんて、思いもしなかった。そのせいで心も身体もキズつき、家族の中で唯一異質な空気をまとう自分を消したい一身で、悪いグループと付き合っていた学生時代。  特に高校生の時が、一番酷かったと記憶している。  高校に入学してすぐに、先輩に呼び出されてしまった。  派手な行動ばかりして無駄に目立つという理由だけで、ボコボコにされたんだけど集団の中のリーダーに目をつけ、ソイツがひとりになったところを色仕掛けで抑え込み復讐してやったんだ。  男に感じさせられ喘いでいる姿をスマホで撮影して、脅しのネタとして使ったお陰で、上級生を牛耳ることに成功。穂高が入学してくるまでは、それはそれは快適な学園ライフを送れたのに――。 「藤田先輩、ちょっといいですか?」  2年に進級したある日、見慣れない1年に声をかけられた。顔を覗き込みながら目線を合わせてくるソイツに、愛想笑いを浮かべてやったら途端に頬を染め上げる。まったく単純なヤツだな――  自分にとって害のある存在だと分かったら、迷うことなく叩き潰してあげるけどね。 「何か用?」 「はい。藤田先輩の弟さんって、井上穂高ってヤツですよね?」 「……そうだけど。穂高が何かやった?」  中学の時は自身の目立つ容姿のせいで随分と苛められ、同級生からボロボロにされていたはず。高校に入学してからは、どうなっているのやら―― 「いえ……やったというか、その。俺と同じクラスなんですけどね、ちょっと際立っているっていうか」 「しょうがないんじゃない。女子が勝手に騒ぎまくるような容姿なんだからさ」  腕を組み、苛立ち紛れに舌打ちをしてやる。 「容姿で言ったら、藤田先輩も負けてないっすよ。すごくキレイ」  言いながら馴れ馴れしく髪に触れてきたので、遠慮なくその手を叩き落としてやった。 「何だよ、お前。誘えば俺がほいほい誰とでも寝ると思って、声をかけてきたのか?」 「まさか! キレイな藤田先輩を抱くのに、タダでなんて恐れ多いですって。井上の情報と引き換えに、どうでしょうか?」  穂高の情報と引き換え、ね―― 「それって俺の身体を引き換えにするほどの、価値があるってことなのかな?」  声をかけられた場所が廊下の奥まった所だったから、人が来ないのが幸いだ。  ほくそ笑みを浮かべながら1年の両肩に手を置き、ぐいっと引き寄せて煽る様に触れるだけのキスを何度かしてやる。 「んんっ、藤田……せんぱ、いっ」 「どうなんだよ、価値があるものなのか?」  そのまま傍にある壁に1年の身体を押し付け、遠慮なく舌を割り入れた。身体目当てで近づいてくるバカなヤツなんて、翻弄するのは朝飯前だ。 「早く言えよ、ほら」 「いっ、ぃ……っ、言えないっすよ、こんな激しいキス……されたんじゃ」  これくらいで根を上げるなんて、まったく情けないね。このレベルなら、寝ることも出来やしない。ディープキスで、お釣りが出るんじゃないかな。 「あ~あ、藤田が下級生相手に、堂々と不純異性交遊をこんな所でしちゃってる! みぃちゃったみぃちゃった!」 「ゲッ……大谷先輩――」  1年の時に絡んできたグループのひとりで、まぁまぁ身体の相性がいいから、逢うと必然的に寝ている相手だった。  もしかして俺を捜している最中に、たまたま見つけちゃったのか? 「俺というセフレがいるというのに1年にまで手を出しちゃうなんて、相当溜まってるんだろ?」  下卑た笑い方をしながら俺と1年を見やる姿に、コッソリため息をついた。イヤな予感しかしないぞ、これは―― 「おい、そこの1年。混ぜてやるから来いよ。見られながらするのも、たまにはいいだろ?」  その言葉に、1年が喉を鳴らす。 「ちょっと待ってよ……。そんな趣味はないからね」  2本いっぺんに相手をする、俺の身にもなってほしい。絶対に大変だろ……。 「まぁまぁ。やってみたらクセになるかもよ。なぁ?」 「いいっすね……」  ふたりの欲望が見事に重なってしまった時点で、俺の意見なんてスルーされることは確定だ。ちんたらしないで、さっさと情報を聞き出せばよかった。クソッ!!

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