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バレンタインに想いを馳せて
本日、2月14日はバレンタインデー。しかも狙いすましたかのように天候が荒れたせいで、漁の仕事がお休みになった。
(これって穂高さんがお祈りでもしたのか!?)
はじめて島で過ごすバレンタインデーを驚かせるものにしようと、足取り軽く帰った俺を出迎えてくれた穂高さんが何故だか妙によそよそしくて、正直不安が胸の中に渦巻いてしまった。
ちなみに昨年のバレンタインデーは、初めてふたりきりで過ごした。
酔うとHになる俺を見越して、チョコレートボンボンの入った大きなチョコの詰め合わせをプレゼントしてくれたんだ。
チョコの中にウォッカの入った物があるとは知らず、適当に摘んで食べてしまった後、身悶える姿を見たからだろう。
『お酒が入っているのは俺が食べて……というか呑んで、チョコレートだけを千秋にあげようか?』
なんていう有り難い提案をしてくれたので喜んでお願いしたのに、実際は呑んだフリをして、口の中にお酒の入ったチョコレートボンボンを次々と放り込まれてしまった。
結局、酔い始めた俺を見て、ヨダレを垂らした穂高さんの一言が耳の中でこだました。
『ち、あきっ、美味しい、ね……もっと食べていいかい?』
荒い呼吸をそのままに俺にのしかかって来て、敏感な部分に舌を這わせる――。
「らめって言っても……食べる、クセに。やぁんっ! どこに舌を這わせて……っ、ほらかさ、ぐりぐりしちゃらめらってばぁ」
自分からダメと言いつつ、わざわざ両膝を持ち上げて食べやすい体勢にしたのは、俺だったっけ。
昨年の失敗があったからこそ気合い十分で帰宅したのに、穂高さんの態度で何だか肩透かしを食らってしまった気がした。
そして現在午後9時48分。夕飯を食べ終えてそれぞれお風呂にも入り、明日の仕事の準備を終えた後、だらだらっとテレビを見て過ごしていたら。
「千秋、ちょっといいかい?」
なんていう穂高さんの声掛けに、心が躍ってしまったのはここだけの話。10時になったら計画していたことを実行しようと思っていたので、それを自然と促してくれる形になったのはラッキーだった。
テレビを素早く消し、穂高さんが正座して待っているテーブルに向かい合わせで同じように座ってみる。
(だけどふたりきりのバレンタインはこれが二度目なのに、お互いどうしてこんなに緊張しちゃうんだろう?)
「あの5分ほど、お時間を頂いていいですか?」
「5分? 別に構わないが……」
きょとんとした顔をして俺を見る、穂高さんの顔が結構可愛い。
急いで隣の部屋に移動して普段着ているグレーのリクルートスーツに着替え、きちんとネクタイを締めてから、あらかじめ用意していた物をポケットに入れた。
「お待たせしました、お客様っ!」
恥ずかしさを打ち消すべく扉を勢いよく開け放ちながら告げた台詞に、何が起こったんだと、ぽかんとしたまま、じぃっと見つめてくる。
さっきまで座っていたテーブルの前までいそいそ近づき、片膝をついて屈み込んだ。そして胸ポケットから名刺を取り出すなり、穂高さんに突きつけるように手渡した。
自分では格好よくやっているつもりだけど慣れないことをしているので、たどたどしさがあるのはどうしても否めない。
「ホストクラブ、ラバーズのナンバーツーの千秋と申します。今宵はご指名ありがとうございます」
以前、俺にホストクラブの体験をさせようと企んだ穂高さんが、家の中でお店をわざわざオープンしてくれた。それを、自分なりに真似してみたんだ。
「ふっ……。ナンバーワンのホストさんは、今日はいないのかい?」
なんて俺が困るようなことをニヤニヤしながら、早速言い放たれてもな。ラバーズのナンバーワンが目の前にいる以上、手も足も口も出せないじゃないか。
「ただ今ナンバーワンは、営業中で不在でして……」
「営業中、ね。バレンタインの夜だし、どこかで誰かといいコトをしているのかも?」
「しれないですね。あはは……」
意地悪から早く解放されたい! いい加減、話にノってくれないかな。
「笑顔の可愛い、ナンバーツーの君が気に入った。指名は変更せずに、このままで頼む」
「か、かしこまりました。お客様のお名前は、何とお呼びすればいいでしょうか?」
「稲穂の穂に猛禽類の鷹で、穂鷹」
それって実際に、ホストクラブで使っていた源氏名じゃ――。
「穂鷹、さん?」
普段と同じ響きのはずなのに頭の中で漢字を描いたせいで、何だか違和感ありまくりだ。
「呼び捨てで構わない」
言いながら闇色した瞳を細めて微笑む姿に、顔を引きつらせるしかない。
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