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―花火―

お盆休みで、漁が3日間お休みのうちに、俺は穂高さんと一緒に、花火をする事にした。 大好きな線香花火を手に、ゆっくりとした時間を過ごしていくふたりを、是非ともお楽しみください(・∀・) ***  夏休みも残りあとわずか――穂高さんと一緒にいられる夏休みが、あと数日となっていた。 「いろいろあり過ぎて、今までで一番刺激的な夏休みになったな」  昼寝している穂高さんを起こさないようにベッドから抜け出し、現在スーパーに向かっていた。ガリッガリッくんのソーダ味を買うために。 「地元の暑さに比べるとカラッとした暑さだからガマン出来るかなって思ったけど、この日差しに焼かれると、やっぱり堪える……」  コンビニやスーパーなどバイト先が空調設備の整ったところだから、クーラーに慣れてしまっている体にはじりじりした夏の暑さが耐えられなくなっていた。それだけじゃなく――。 「どんなに暑くても幸せそうに俺を抱きしめる誰かさんがいるから、暑さが二割増になってるんだよな」  太陽の暑さは苦手だけど、穂高さんの熱さは平気……と言い切りたいけど、やっぱり暑い!  日本の北に位置するこの島は夕方から一気に気温が下がるため、クーラーを使わずに夜を過ごせている。昼間暑い時は、扇風機オンリー。  俺を抱きしめながら額に汗を浮かべて寝ている姿に、何とも言えない申し訳なさを感じて、離れようとしたら怒りだす穂高さん。 『どこへ行くんだ千秋?』  それはそれは、ひくぅい声色で俺の背中に向けて告げられる言葉。聞き慣れないそれに、いきなり身体が竦んでしまった。 「ヒッ!? あの……穂高さん暑そうだから、扇風機を寝室に設置してあげようかな、なんて思ったりして」  正しくは、穂高さんと自分なんだけど――。  全裸のまま立ちつくして返事を待つ俺を、起き上がって寝ぼけ眼のまま、じっと見つめてくる。もしかして俺がいなくなった条件反射で、起きただけだったりするのか? 「あのぅ……?」 『……言われてみたら暑いかもね』  ――反応、遅っ!! 漁で疲れてしまって、神経がどっかに逝ってるのかもしれない。 「でしょ? だよね。ちょっと待ってて、すぐに扇風機を持ってくるから」  居間に置いてあった扇風機を片手に寝室に戻ると、首振りするようにベッドに向けてスイッチオンした。 「ついでだから、麦茶でも飲もうっと」  ぼんやりしている穂高さんを尻目に冷蔵庫に向かい、麦茶のペットボトルを取り出して片手にはコップをふたつ持っていそいそと寝室に戻ったら、相変わらずぼーっとしたままの彼と目が合う。 「穂高さん、大丈夫? 暑さにやられちゃった感じなのかな?」 『ん……。大丈夫』  冷たい麦茶を急いでコップに注ぎ、そっと手渡してあげた。 「汗をかいてるみたいだし、脱水症になったら大変だから全部飲んでね」  俺の問いかけに素直にこくりと首を縦に振り、美味しそうにゴクゴクと飲んだ。穂高さんが飲むのを見ながら自分も水分補給すべく、麦茶を飲み干す。 「はーっ、美味しい! 生き返るなぁ」  汗が瞬く間に引いていくのを感じていたら、目の前に差し出されるコップ。お代わりかと思って、ペットボトルを手に取ったら――。 『ご馳走様でした、千秋』 「あ、はい」  差し出された穂高さんのコップを貰い、サイドボードに置いてからお代わりすべく、自分のコップに麦茶を注いだ。再びそれに口をつけてると、びしばし視線が突き刺さるのを感じる。 『……美味しそう』  ぽつりと呟かれるセリフに、内心苦笑した。あれか――。 「あの、穂高さん。これ飲みます?」  おずおずと俺のコップを差し出したら、嬉しそうな表情を浮かべてそれを手にすると、わざわざ俺の飲み口を探してから口をつける。  俺が以前バイト先で、一緒に働いている竜馬くんが差し出したペットボトルに間接キスしたのを、運悪く目撃されたのがきっかけで、それ以降俺が手にするものをモノ欲しそうにしてくれるのだ。  時には自分のを、無理矢理に寄こすことすらある始末――執念深いといえばいいのか、はたまた可愛いといえばいいのか、俺としては少々複雑な気分だったりする。 『千秋、ありがとう。美味しかったよ』  半分だけ飲んで戻された麦茶をそのまま飲み干すんじゃなく、穂高さんが口を付けた所で飲むのが、変な争いごとが起こらずに済むワザ。  しかしながら、元ホスト――全てを見越して、口を付けた所を俺の向きに合わせて、きちんと手渡してくれるのが流石だったりする。穂高さんに手渡してから、いつも後悔している俺とは大違い。  凄いなぁと思いながら残りの麦茶を飲み干し、サイドボードに置いた。途端に左手を、ぐいっと引っ張られる。 「うわあぁ!?」  起き上がってる穂高さんの膝の上に、うつ伏せのままゴロンしてしまった。起き上がる間もなく俺の背中に穂高さんのくちびるが、ちゅっと押し付けられてしまい……。 「あっ……や、だっ!」 『キレイな千秋の裸がもう少しで見納めになると思ったら、残念すぎて寝ていられないな』 「ぁ……っ、もぅ…夜は仕事で寝てないんだからっ、うぅっ……少しでも睡眠、とっておかないとっ…ンンっ! らめれすって……はぁはぁ」  ――説得するのも必死だよ(涙) 『だったら俺が疲れ果てるまで、抱かせてくれないか?』  言うや否や、さっさと俺の背中に跨ってきた。こうなってしまうと俺に拒否権なんてものはなく、されるがままになっちゃうんだ。 「ちょっ…ほらかさ、んっ…てば。寝ないと仕事にっ、支障をっ……あっ、はぁう……スタミナが切れちゃ、うって」 『それなら大丈夫、心配ない。千秋が喘ぎ啼いてくれたら、みるみる内に元気になるから』  それ、違うモノが元気になるの間違いだろうよ――!  心の中で絶叫しても穂高さんに伝わるワケがなく、反抗したくてもマウントポジションを取られた時点でアウトなので、もう……。 「ひっ……あっ、あっ、ん…どこっ、舐めて…ゃぁんっ!!」 『イヤがらないでくれ、全部君が悪いんだ。全裸で俺の目の前をウロウロしたお陰で、すっかり目が冴えてしまったんだから』  かくて墓穴を掘ってしまった俺は、穂高さんによって散々掘られてしまい、もう動けないよと愚痴を言った時には、夢の中の人となっていた。  ――やっぱり穂高さん、仕事で疲れていたんじゃないか。 「故に、安心してアイスを買いに行けるんだけど――」  島の中央にあるスーパーの中に入り、アイスコーナーを目指した矢先にふと目についた、花火コーナーの前で立ち止まってしまう。  お盆休みの3日間は漁がお休みなので、一緒にいられるんだよな。 「子どもみたいだねって笑われるかもしれないけど、大好きな線香花火を穂高さんとやってみたな」  迷うことなくそれを手に取ってから、アイスコーナーへと足を進めた。夏休み、最後の夜の思い出になるといいなと思いながら、ウキウキと心を弾ませてしまった。

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