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花火~その後のふたり~

***  ザザーン……ザザーン……パシャッ…  さっきまで聞こえなかった波の音が、耳に心地よく響いてくる――それだけじゃなく、火照った身体を冷やしてくれるような気持ちいい風を感じることが出来て、ゆっくりと目をつぶった。 「千秋、寝ちゃダメだよ。風邪を引く」  後ろから抱きしめている穂高さんが腕の力を強めつつ、俺の身体を揺り動かす。この温もりがあれば、絶対に風邪なんて引かないと思うのにな。 「寝てないよ。ただ感じていたかっただけ、五感全部を使って覚えておきたかったんだ。夏休み、最後の思い出に」 「……まだ、感じ足りなかったのかい?」  その解釈の意味が分からない。俺の台詞が、おかしいのだろうか。 「もう、感じまくっていたのを知ってるクセに、どうして足りないなんて言えるのかな……」  呆れた声をあげた俺を宥めるためなのか、うなじにキスを落してきた。そのせいで、さっきまでの出来事を思い出してしまう。 『くっ…ちあ、き。気持ちいいかい?』 『んんっ、はぅ……んぁっ、は、あぁ――』  外でいたしているというのに、容赦のない4点責めに喘ぐことしか出来ない自分。背後から穂高さんの指を口の中に突っ込まれている時点で、マトモな答えが出来るハズがない。 『ね、いつもより締めつけているのは、俺を早くイカせようとしているから? すごくっ……キツい、よ千秋』 『ひがっ…あぁあぁ、ぅあっ……んっ!』  耳元で囁きながら耳の穴に舌を突っ込み、ぐちゅぐちゅ責め立てるとか本当勘弁してほしい。  前回はお酒の勢いが手伝ったから、いつもよりハメを外してしまったところがあったけど、今は羞恥心が勝っていて、落ち着いてなんていられないというのにな。  それをぶち壊すためなのか、いきなり始まった4点責めで、それをどんどん壊されていった。  穂高さんの右手は俺の舌先を感じるように弄び、吐息をかけながら耳周辺をペロペロしながら、反対の手は俺のをしっかりと握りこんで、ゆっくりと扱いている。  これだけでも充分すぎるくらいなのに更に俺を乱そうと、強弱をつけて中をかき回す穂高さん自身に、どんどん堪らなくなっていったんだ。 「んぁっ…ほらか、さ…あひがっ、つらぃ」  ずっと立ち膝の状態でいたせいか、ガクガク震えてきてしまい立っているのがやっとだったので、言葉にならない声を出し哀願してみる。 「もう少しだったのに、残念だな。よいしょっと……ん、これも苦しそうだね」  後ろから抱きしめていた俺の身体を回転させてから、砂浜の上に敷きっぱなしにしているシャツの上に横たわらせてくれたんだけど、繋がっている部分に砂が入らないようにするには、腰を高くしなきゃならないから頭が低くなってしまって、苦しそうに見えるのかも。 「大丈夫だよ、平気」 「だけどこのままでいたら、千秋の頭に血が上ってしまう。そうだな……これならどうだろうか?」  喉で低く笑いながら告げると俺の身体を引っ張り起こし抱き寄せてから、横たわっていた場所に、穂高さんが腰を下ろした。こんな状況なのに、向かい合いながらお互い余裕で微笑み合ってしまう。 「ふっ……千秋の顔を見ながら背後にある海の景色も、一緒に楽しめてしまうよ」 「俺は穂高さんの顔を見ながら、遠くにあるお月様を眺めることが出来ちゃう」 「悪くないだろ、外で抱き合うのも」 「でも恥ずかしいよ……。そこの道路をいつ誰が通るか、分からないのに」  ぷーっとくちびるを尖らせてみせたら、それすらも面白いといった感じで、はむっとくちびるを食む穂高さん。 「んもっ! 俺の話を聞いてくださいって」 「ん……聞いてるよ」  なぁんて答えているものの目がらんらんとしていて、真面目には程遠いと思われる。ま、お互いに繋がったままだし、しょうがないのかもしれないけれど。 「いっ、1回目のは手加減しながらシてくれたのは、分かるんですけど。挿れたまま続行した2回目のときの全力具合がですね……相当辛かったんですけど」  いろんな意味で辛かった。言葉に表せられないくらいに―― 「君が一言「気持ちイイ」と言ってくれたら、あそこまでエスカレートしなかったんだが。どうしても悦ばせようと、ついつい頑張ってしまうからね」 「やっ、それは……」 「んんっ。照れながら俺のを締めつけるなんて、悪いコだな。まったく……。以前ここでしたときみたいに強請ってくれたら、良かっただけだったのに、ね」  く~~~っ。思い出したくないことを目尻を下げてデレデレしながら言ってくれちゃうとか、どうしてくれよう。 「千秋、そんなに怒らないで。俺のお願い、聞いてくれないか?」 「……何ですか?」 「穂高って、呼び捨てで呼んでみてくれ」 「ええっ!? 何か恐れ多い感じがする」 「そうか。それが出来ないのなら『兄さん』で手を打とう!」  もしかしてこれって、穂高さんの究極の選択だったりするのか!? 俺を困らせようとしてるでしょ、ねぇっ?  顔をこれでもかと引きつらせて白い目で穂高さんの顔を見ているのに、それをしっかりと無視するように顔を横に背けた。 「俺の身体を使って、大好きな兄さんをイカせてあげるから。なぁんて、言ってもいいよ。ほら、どうぞ」 「絶対に言いません、無理です」 「じゃあ、呼び捨てに決定だな」 (――何なのこれ。誘導尋問だったのか……) 「そんな怒った顔をしないで、言ってごらん」  白々しい表情を作ってわざわざ顔を覗き込んで強請られると、余計に言いにくい。それに怒ってるワケじゃないんだ、誘導尋問が面白くないだけ。 「早く言ってくれないと俺の下半身が待ちくたびれて、あらぬ粗相をしてしまうかもね」  トドメを刺すように笑いながら告げられた言葉に、ますます口を尖らせるしかないよ。  何なんだ、この卑猥な脅し方は――穂高さんらしいといえば、そうなんだけどさ。 「……ホダカ」  ボソッと告げた俺の言葉は、すっごく小さかったのは認める。でも―― 「ん? 聞こえないな。ハッキリ言ってくれないと」  とぼけた顔して首を傾げるなんて芝居、本当に止めてほしい! 「ほ、だかっ」  よし、大きな声で言えたぞ。これはツッコミ入らないだろうと胸を張った俺に、何故だか顔を曇らせる。 「何を言ってるんだ、千秋。そんなに、裸になりたかったのかい?」  ありえない聞き間違えに、ガックリとうな垂れるしかない。変に力んでしまったから、ちょっとおかしかったのは認めるよ。だけど穂高と裸なんて、どう考えても無理があるとしかいえない。  むぅと唸りながら上目づかいで睨んでみても、相変わらずにこやかな表情を浮かべ、俺を見つめている穂高さん。それだけじゃなく、ちゃっかり下半身を動かすとか、もう――気持ちイイとこを狙って、ゆっくり責めるなんて確信犯にも程がある。 「千秋の中、どんどん熱くなってきているね。堪らないだろ?」 「酷い、よ……。ちゃんと、いっ、言ったのに」 「聞こえなかったよ、俺の心まで響かなかった。だからきちんと、言ってほしいんだ。君のお願いと一緒に」  どこか切なげな眼差しをする恋人に掠め取るようなキスをしてから、心を込めてハッキリと告げてみる。 「穂高……穂高、一緒にイキたい。大好きな貴方と一緒に――」  最後の方はどうしても恥ずかしくなってしまい、穂高さんの首に両腕を絡めて耳元で告げてしまったのだけれど、そんな俺の身体をぎゅっと抱きしめて、痣のついてるところを甘咬みしてきた。 「そんな可愛い声で言われたんじゃ、絶対に断れないな。最後の言葉は掠れてしまっていてよく聞き取れなかったのだが、でも伝わってる。俺も同じ気持ちでいるよ千秋」 「ひっ!? ちょっ、いきなりぃっ……そん、なに腰…使うなっ、んて」 「この間は酔っていたから、覚えていないなんて言っていたろ。だからっ、今夜のは…忘れられないように、うっ…してあげる、よ」  甘い囁きと共に重ねられるくちびるのせいで、言いたかったことも喘ぎ声も全部、奪われてしまった。だけど俺のお願いを、穂高さんはきちんと聞いてくれたんだ――。  狂おしいやら悩ましいやら、そんな経緯が合ったせいで、周りの音なんて全然気にせずに、いたしちゃったのだけど。  抱き合った後のこういうまったりした時間を、ふたり揃って感じるのも悪くないな。  そんなことを考えて自然と口元が緩んだとき、耳元で穂高さんの鼻歌が聞こえてきた。日頃は滅多に歌わない人なので、鼻歌自体が珍しい。もしかしたら、俺と同じ気持ちなのかも。  その鼻歌に合わせて歌詞を口ずさんであげようと思ったのに、ずっと聞いていても何を歌っているのか、全然分からなかった。もしかして外国の曲? 「気持ちよく歌ってるトコ悪いけど、それ誰の歌? 聞いたことがないメロディだね」  遮ってしまうのは勿体ないけど胸の中の疑問が勝ってしまったので、思いきって訊ねてみる。 「……結構、CMで流れているヤツだよ。レイザップの」 「レイザップって、結果をコミットしようぜを前面に押し出してる、ダイエットとか筋トレをアピールしてる、あのCMでしょ? レイザップのCMで流れていた歌って、確か葩御 稜(はなお りょう)が歌ってなかったっけ?」  付き合い始めた当初にファミレスで彼とばったり鉢合わせして、穂高さんの機嫌がすっごく悪くなってしまった経緯があったのだ。そんな彼の曲を歌うなんて、信じられないな。 「ん……。CMの演出は好みじゃないが、バックで流れているメロディが耳に残ってしまってね。気がついたら、口ずさんでしまうんだよ」  レイザップのCM――葩御 稜が少しぽっちゃりした女のコと、腕を組んで仲良く歩きながらスタートする。ふと立ち止まったところに大きな建物があって、そこがレイザップだったりするんだけど。 『俺と一緒に、コミットしない?』  とか何とか彼女の耳元で囁いて、ぎゅっと抱きしめ――。 『カッコよくなった俺を、もっと好きになって欲しいんだ。ねぇはじめようよ?』  男とは思えない、肩まで伸ばしたキレイな黒髪をなびかせて柔らかく微笑む姿に、少しぽっちゃりした女のコが何度も首を縦に振って頷き、建物の中に入っていく。  最終的にはナイスバディになった彼女と、少しだけマッチョになった彼が出てきて、颯爽と彼女を横抱きにし、ポーズをとっているシーンで終わるんだけど、CMが盛大に流されるせいで、音楽も有線で相当な数がリクエストされていた。  バイトしてるコンビニで、イヤというほど聞いているくらいに。  だけどおかしい。イヤというほど聞いているのに穂高さんの鼻歌が、何であるか分からなかったというのは、如何なものだろうか? 「穂高さん、もう一度鼻歌を歌ってみてくださいよ。サビの部分ですよね?」 「……もう無理」 「はい?」  珍しく根を上げた彼を不思議に思って顔だけで振り返って見てみると、眉根を寄せて困った表情を浮かべていた。  そういえば以前ネコの鳴き真似をしたときも、すっごく変だったっけ。本人はネコと言い張ったのだけれど、カエルを押し潰したような鳴き声だったのだ。 「俺が音痴だってこと、気がついただろ。なのでこれ以上、醜態を晒すワケにはいかない」 「そうなんだ。でも音痴だったら困ったでしょ? ホストをしていたら、必ず歌わされただろうし。今夜は君とパーティナイツッ! みたいな」 「千秋の中のホストクラブって、随分と派手目な感じだね。確かに歌えと言われたりはしたが、そういうのは担当がちゃんといて代わりに歌ってくれたから、難を逃れていたんだ」  なんて勿体ない。穂高さんの声は、聞き心地がすごくいいのに――。 「そうだな。夏休みここを出る前に、一度ホストクラブの体験をしてあげよう。雰囲気だけでも、味わわせてあげるよ」 「いえいえ。普段から既に尽くして戴いているので、もう結構です」 「前金として千秋がさっきの歌、歌ってくれたらね」  何で既に擬似ホストクラブの体験話が、勝手に進んでいるのでしょうか。断ったというのに、もう……。 「彼のファーストシングル、【アナタを毒占】でもいいよ」 「むっ、無理だよ。あんな卑猥な歌なんて」  作詞を葩御 稜が手がけたらしいのだが、彼らしい表現というか、かなり過激な歌詞だったため、日中のオンエアを控えられた曲だからか、深夜の有線で頻繁に流されていた記憶がある。  それを踏まえてなのか、セカンドシングルはそこまで卑猥じゃないけれど、恋人を求める気持ちを実に率直に表現した作りになっている歌だと思われ――。 「だったら、レイザップで流れてる歌で手を打とう」  それを歌わせようとする穂高さんが、またしてもやってくれるなんて。これも究極の選択じゃないか……。 「……【アナタをアイシテル】のサビの部分だけですよ」 「充分。さぁ歌ってくれ」  わくわくしているであろう穂高さんの両腕を振り解き、起き上がって背中を向けた。目の前にあるのは、真っ暗闇の海のみ。観客は背後にいる大好きな彼だけ。  ゆっくりと息を吸い込み、大きな声を出す。歌詞を思い出しながら、心を込めて歌い上げてみる。 「膨らんだ感情を押し付けるように 私の中へと深く沈みこんで  キツく抱きしめて 離さないでいて欲しい  心も身体も蕩けるように アナタを愛したいから♪」  歌い終わる間もなく、さらう様に後ろからぎゅっと身体を抱き締められてしまった。 「……もう一度、シたい」 「だ、ダメだよ。つづきは家に帰ってから」 「だったら早く帰ろうか。はい、これ」  敷きっぱなしにしていたシャツの砂をバシバシと叩き落して、手渡してくれたのだが――。 「これ、穂高さんが着ていたヤツでしょ。俺のはそっち」  何故だか、ネコ耳付きのフードを手渡してきた。 「千秋のシャツは、俺が戴いた。なので君はコレを着るしかない」  戴いたと言っているけど正確には、頭に被っている状態。サイズの違いすぎる俺のシャツを着たら、破いてしまうのが分かるしね。 「ん……」  言いながら押し付けるように手渡してきたそれを渋々受け取り、穂高さんのマネをして、フードを被ってみせた。こうやって着たら、間違いなく喜ぶだろうなぁって思ったから。 「あまりジロジロ見ないで。恥ずかしいから」  ネコ耳フードの縁を掴んで目深に被り、顔を見えないようにしたら、いきなり両手首を掴んでキスしてきた。 「んぅっ!?」 「想像以上に似合ってる。可愛いよ千秋……。その格好、誰にも見せないようにせねば」  その言葉に照れつつも困り果てる俺を尻目に、またしても角度を変えてキスする穂高さん。 「ちょっ、ほらか、さ、これじゃあ…っ、家にかえ、れない…ってば」 「ん……。君が可愛すぎるのがいけない」  相も変わらず俺の意見を無視するとか、ねぇ――あわよくば又ここで、いたしちゃおうとしているでしょ!?  尚も、くちびるを重ねようとしている彼を阻止したくても、両手首を掴まれている時点で無理。ここは何とかして止めなきゃ。  とりあえず鼻から息を吸って、一旦止めて……。 「っ……穂高っ!!」  近づいてくる顔に向かって、大きな声を出してやった。 「!!」 「手、離してほしいな」  掴まれてる両手首に視線を飛ばしたら、やんわりと外す。解放されたその腕を、穂高さんの首にかけてあげた。背の高い彼をぐいっと引き寄せ、耳元でそっと囁いてみる。 「か、可愛くて大胆な俺、見たくない?」  ちょっとだけ掠れてしまったけど、告げた台詞は伝わったらしい。穂高さんが喉を鳴らす音が、はっきりと聞こえてしまった。 「何をしてくれるんだい? すごく気になるね」 「それは、帰ってからのお楽しみ……です」  言い終えた後、思いきって穂高さんにキスしてあげる。大胆な自分をアピールするかのように――普段穂高さんがしてくれる気持ちイイことを真似して、同じようにしてあげた。 「うっ…ち、千秋、そんなのをここでしたら、帰ってからのお楽しみを、今ここでやるハメになるよ」  ほらほらと言いながら嬉しそうな顔して、下半身を押し付けなくても、感じているのは分かっているから、まったく。  これ以上の接触を避けるべく腕を外しかけたら、逃がさないといわんばかりに抱きしめてきて。 「うわあぁっ!?」  軽々と俺の身体を横抱きにし、一気に駆け出した。俊敏な動きに振り落とされそうになり、穂高さんにぎゅっとしがみ付くしかない。 「俺だけの可愛いHなキ○ィは、誰の目にも晒さないようにしないといけないね」  格好よく言い放ったのだけれど、俺のシャツを頭から被ってる時点で格好良さは半減されている。  月明かりに照らされている俺たちの姿を見たままに表現するなら、大柄なオバケにさらわれた、小さいネコといった感じかも。  へんてこな組み合わせだけど、これはこれで夏休みのいい思い出になったとさ。  お部屋でホスト体験は、後日また連載する予定です。お楽しみに(・∀・)

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