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ハートに火をつけて(遠くにいる大切な君に――)

 本日3月14日、今週末には穂高さんのいる島に引っ越しする予定だった。  家の中が段ボールで溢れ返っている状態で忙しい俺の手に、たった今届けられたばかりの紙袋に入った荷物がある。 「穂高さんから荷物が送られてきたのが初めてってだけじゃなく、ホワイトデーに送ってくれるなんて、何気に嬉しいかも!」  紙袋に貼り付けられている、送り状をしげしげと眺める。穂高さんが書いてくれた自分の名前が、何故か誇らしく見えてしまうのはどうしてだろう。 「初めて穂高さん宛に手紙を書いた時も、結構ドキドキしたっけ。同じように、ドキドキしてくれたのかなぁ?」  ただ恋人の名前を書くという行為だけで照れてしまって、内容が崩壊したのは情けないにもほどがある。  一か月前のことを思い出しながら紙袋の封を切って、中身を取り出してみた。これは――。 「美味しそうなクッキーの詰め合わせと、怪しげな小箱に手紙が一通か……」  俺自身も穂高さんにキ○ィの顔の形のガラスケースを送っているため、それに対抗している気がしたので、怪しげな小箱という表現を使った。  手の中に収まる真っ白い長方形の箱を恐るおそる開けてみたら、キテ○の顔が印刷されているハンディマッサージ機が入っていたのだが――どうしてこれを俺に?  急いで手紙を読んで、疑問を解決するしかないな。どれどれ…… 『愛しの千秋へ  今頃家の中は、荷物でいっぱいになっているだろうか。相当、窮屈な生活をしいられているだろうね。  疲れた時に、甘い物を食べて癒されるといい。それと引っ越し作業で肩が凝るだろうと考えて、一緒にそれを同封してみた。俺が傍にいなくて寂しいからって、敏感な部分に押し当てたりしたらダメだよ。週末、そっちに行くのを楽しみにしてる  穂高』 「なっ、何を考えてるんだ、あの人は!? 俺はそういうことを絶対にしないのが分かってるクセに、わざとこういうの書いてくれちゃって。ハズカシイったらありゃしない」  かくてクッキーは疲れた時の甘味物として戴いたけれど、マッサージ機は絶対に使うことなく、箱に戻してやった。  しかしこれが罠だったというのが、穂高さんが迎えに来たときに分かったのですが、多くは語るまい。読者の皆さんならきっと、どういう風に穂高さんが使うか、想像ついたでしょうね(涙) 『あれ? どうして使っていないんだろうか。気に入らなかったのかい? しょうがないから俺が使ってみるか、そぉれ!』ということです。って説明いらなかったでしょうか←作者談  おしまい

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