80 / 117
蒼い炎1
※【残り火】本編2nd stage後半からFinal Stageにかけての畑中 竜馬目線です。
***
「アキさん、早く帰って来ないかな」
「何だよ竜馬、俺とそんなに仕事したくないワケ?」
「いやいや。いつも一緒に仕事していたアキさんがいないと、調子が狂うっていうか、違和感ありまくりでさ」
夜のコンビニの店内のそこかしこに、アキさんと過ごした面影があって。あのときはくだらないことを喋って盛り上がったり。またあるときは、俺がありえないミスをしたというのに、カラカラ笑って許してくれたりと、お世話になりまくりで。
夏休みに入ったと同時に友達のいる島でバイトをする彼に、しばらく逢えずにいるせいか、優しいアキさんの顔ばかり思い浮かべてしまった。
「アプリでメッセ送っても、既読されるのはいつも夜だし、返事だってなかなか返ってこないし」
島でのバイトがとても忙しいのかもしれないけれど、アプリでの素っ気ない態度は、いつものアキさんらしくないって感じなんだ。
「竜馬だけじゃないよ。俺の出したメッセも、返事は決まって夜が多いかも」
「ゆっきーもか。良かった……。俺、何かしでかしたせいで、避けられてるのかもって、深読みしちゃった」
「あのさ竜馬、変なことを聞くけど、千秋と何かあった?」
レジの前に立つ俺に、棚の整頓をしながら訊ねてきたゆっきー。
「別に何もないけどさ。日本語って相手の解釈次第で、色々とれる場合があるでしょ」
「まぁね。たまに、面倒くさいことになったりするよね」
「誤解されたかなとか、もしかしてキズつけてしまったんじゃないかと、心配しちゃって」
「心配、だけなの?」
少しだけ間を置いた質問に、首を傾げるしかない。
「それって、どういうこと?」
「いや……。なんていうか竜馬が千秋に、執着しているなって思ってさ」
「ぷっ! それってゆっきー、ヤキモチ妬いてるとか?」
「ちがっ! 絶対にそんなんじゃないって!」
ゆっきーが声を荒げた瞬間、整頓してる棚から、箱物がひとつだけ落ちてきた。寸前のところで上手くそれをキャッチするのが、しっかり者の彼らしい。
「危なかった、よいしょっと。たださ、友達間での恋愛のいざこざが、俺としてはイヤだなって思っただけ」
「やっ、恋愛なんて何を言ってんだよ。アキさん、男なのに」
「お前、気づいてないだろうけど何かにつけて、千秋の名前を連呼しているよ」
猜疑心を含んだ眼差しで、少しだけ離れたところから、ゆっきーが俺を見つめてくる。その視線がまるで自分の心を見透かすように感じたので、思わず視線を伏せてしまった。
「そ、それはその……いつも傍にいたアキさんがいなくて寂しくて、つい……」
つい、口にしただけと言いたかった。それなのに言葉が空を切ってしまい、続けることが出来ない。人に言われてはじめて自分がアキさんを、特別に想っている事実に気がついてしまった。
何やってんだ、俺――
「……でも、ね。千秋は止めた方がいいと思う。恋人、いるんじゃないかな」
「知ってるよ。赤い車に乗ってる、凄みのあるイケメンだよな」
「なんだ、知ってたんだ」
そりゃあ、さ。アキさんがソイツを見る目が、明らかに違うから。それだけじゃなく、車に乗り込んでキスしてるところを、たまたま見てしまった。
嬉しそうに車に乗ったかと思ったら、引き寄せられる様に顔を寄せて、キスしてるのを見て、驚くよりも綺麗だなって、思わず見惚れてしまったのはナイショだ。
「ゆっきー俺、考えたんだ。赤い車に乗ったソイツ、ここ暫く店に来ていないよね。しかもソイツが来なくなってからアキさん、すっげぇ元気がなかったし。きっと酷い別れ方をしたんじゃないのかなって」
「うーん。確かに、そうだけど」
「バイトを増やしているのも、ソイツを思い出さないようにすべく、頑張っているのかもなって。考える暇を潰すためにさ」
時々、やるせなさそうな表情を浮かべ、遠くを見つめるアキさんに、友達として何て声をかけていいか分からなかった。友達として――だが恋人としてなら、どうなるだろうか?
アキさんの心に、大きく開いてしまっている傷口を塞いでやるべく、恋人として接してあげたら、きっと……
「俺、アキさんがこっちに帰ってきたら、思いきって告白しようと思う」
「ゲッ……。いきなり告ちゃうんだ、竜馬」
ギョッとした顔して、イヤそうな表情を浮かべたゆっきーには、すっげぇ悪いんだけど。
「うん。アキさんの寂しげな顔、俺はもう見たくないんだ。前のような笑顔が見たいから」
だからアキさん、帰ってきたらこの気持ち、受け止めてください――俺の隣で、いつも笑っていて欲しいから。
大好きな人がいなかった夏休みは、すげぇ長くてつまらないものだった。それはまるで、永遠のように感じられたけどその代わり、アキさんを大事に想う気持ちが分かったから、良しとしなきゃいけないな――
世界中の誰よりも、アキさんが好きです。
ともだちにシェアしよう!