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蒼い炎1

※【残り火】本編2nd stage後半からFinal Stageにかけての畑中 竜馬目線です。 *** 「アキさん、早く帰って来ないかな」 「何だよ竜馬、俺とそんなに仕事したくないワケ?」 「いやいや。いつも一緒に仕事していたアキさんがいないと、調子が狂うっていうか、違和感ありまくりでさ」  夜のコンビニの店内のそこかしこに、アキさんと過ごした面影があって。あのときはくだらないことを喋って盛り上がったり。またあるときは、俺がありえないミスをしたというのに、カラカラ笑って許してくれたりと、お世話になりまくりで。  夏休みに入ったと同時に友達のいる島でバイトをする彼に、しばらく逢えずにいるせいか、優しいアキさんの顔ばかり思い浮かべてしまった。 「アプリでメッセ送っても、既読されるのはいつも夜だし、返事だってなかなか返ってこないし」  島でのバイトがとても忙しいのかもしれないけれど、アプリでの素っ気ない態度は、いつものアキさんらしくないって感じなんだ。 「竜馬だけじゃないよ。俺の出したメッセも、返事は決まって夜が多いかも」 「ゆっきーもか。良かった……。俺、何かしでかしたせいで、避けられてるのかもって、深読みしちゃった」 「あのさ竜馬、変なことを聞くけど、千秋と何かあった?」  レジの前に立つ俺に、棚の整頓をしながら訊ねてきたゆっきー。 「別に何もないけどさ。日本語って相手の解釈次第で、色々とれる場合があるでしょ」 「まぁね。たまに、面倒くさいことになったりするよね」 「誤解されたかなとか、もしかしてキズつけてしまったんじゃないかと、心配しちゃって」 「心配、だけなの?」  少しだけ間を置いた質問に、首を傾げるしかない。 「それって、どういうこと?」 「いや……。なんていうか竜馬が千秋に、執着しているなって思ってさ」 「ぷっ! それってゆっきー、ヤキモチ妬いてるとか?」 「ちがっ! 絶対にそんなんじゃないって!」  ゆっきーが声を荒げた瞬間、整頓してる棚から、箱物がひとつだけ落ちてきた。寸前のところで上手くそれをキャッチするのが、しっかり者の彼らしい。 「危なかった、よいしょっと。たださ、友達間での恋愛のいざこざが、俺としてはイヤだなって思っただけ」 「やっ、恋愛なんて何を言ってんだよ。アキさん、男なのに」 「お前、気づいてないだろうけど何かにつけて、千秋の名前を連呼しているよ」  猜疑心を含んだ眼差しで、少しだけ離れたところから、ゆっきーが俺を見つめてくる。その視線がまるで自分の心を見透かすように感じたので、思わず視線を伏せてしまった。 「そ、それはその……いつも傍にいたアキさんがいなくて寂しくて、つい……」  つい、口にしただけと言いたかった。それなのに言葉が空を切ってしまい、続けることが出来ない。人に言われてはじめて自分がアキさんを、特別に想っている事実に気がついてしまった。  何やってんだ、俺―― 「……でも、ね。千秋は止めた方がいいと思う。恋人、いるんじゃないかな」 「知ってるよ。赤い車に乗ってる、凄みのあるイケメンだよな」 「なんだ、知ってたんだ」  そりゃあ、さ。アキさんがソイツを見る目が、明らかに違うから。それだけじゃなく、車に乗り込んでキスしてるところを、たまたま見てしまった。  嬉しそうに車に乗ったかと思ったら、引き寄せられる様に顔を寄せて、キスしてるのを見て、驚くよりも綺麗だなって、思わず見惚れてしまったのはナイショだ。 「ゆっきー俺、考えたんだ。赤い車に乗ったソイツ、ここ暫く店に来ていないよね。しかもソイツが来なくなってからアキさん、すっげぇ元気がなかったし。きっと酷い別れ方をしたんじゃないのかなって」 「うーん。確かに、そうだけど」 「バイトを増やしているのも、ソイツを思い出さないようにすべく、頑張っているのかもなって。考える暇を潰すためにさ」  時々、やるせなさそうな表情を浮かべ、遠くを見つめるアキさんに、友達として何て声をかけていいか分からなかった。友達として――だが恋人としてなら、どうなるだろうか?  アキさんの心に、大きく開いてしまっている傷口を塞いでやるべく、恋人として接してあげたら、きっと…… 「俺、アキさんがこっちに帰ってきたら、思いきって告白しようと思う」 「ゲッ……。いきなり告ちゃうんだ、竜馬」  ギョッとした顔して、イヤそうな表情を浮かべたゆっきーには、すっげぇ悪いんだけど。 「うん。アキさんの寂しげな顔、俺はもう見たくないんだ。前のような笑顔が見たいから」  だからアキさん、帰ってきたらこの気持ち、受け止めてください――俺の隣で、いつも笑っていて欲しいから。  大好きな人がいなかった夏休みは、すげぇ長くてつまらないものだった。それはまるで、永遠のように感じられたけどその代わり、アキさんを大事に想う気持ちが分かったから、良しとしなきゃいけないな――  世界中の誰よりも、アキさんが好きです。

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