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蒼い炎8
「ぁ、あのね竜馬くん……」
井上さんとの会話を強制的に終えて力なく耳からスマホを外したら、小さな声で話しかけたアキさん。
「そろそろスマホ、返してくれないかな? もうすぐはじまる講義に、急いで行かなきゃならないし」
その声に彼の顔を見たら、相変わらず困惑の表情を浮かべていた。今までのやり取りを傍で聞いていて、複雑な心境だっただろうな。
「ゴメンなさい。電話が終わったら、一気に力が抜けちゃって」
苦笑いしながら謝って足を1歩だけ踏み出すと、音もなく右手を差し出してきた。
(その手にスマホを渡してくれって意味なんだろうけど、このまま大人しく渡すだけじゃ、つまらないよね――)
隙をつくように一気に距離をつめて、アキさんの体をぎゅぅっと抱きしめた。
「わっ!?」
何が起こったか、分からなかったんだろう。一瞬だけ固まって、されるがままでいたけど。
「イヤだっ!! 放してよ、竜馬くんっ!」
抵抗をはじめた体を拘束すべく、更に力を入れて抱きついてやる。そして耳元にくちびるを寄せて、ゆっくりと呟いてあげた。
「アキさんの中にある心の隙間に絶対に入り込んで、井上さんから奪ってあげる」
「やあぁっ、耳元で喋らないで……っ。いい加減に腕を外してって」
びくびくっと体を振るわせて頬を赤く染め上げる姿に、思わず下半身が疼いてしまった。
「へえ、耳が弱いんだ。それにすっごく可愛い声を出すんだね。乱れたアキさんの姿を見てみたい」
わざと顔を覗き込みながら言うと、眉根を寄せてふいっと視線を逸らし、首を横に振りまくった。そんな渋い表情だったけど、アキさんは何をしていてもすごく愛らしいな。
「お願いだから解放してよ。これ以上、何かしたら嫌いになるから」
「分かった、嫌われたくないし。だけど覚えておいてほしいんだ」
「…………」
相変わらず視線を逸らしたままでいたけど、構わずに口を開いた。
「アキさんを想うたびに気持ちがどんどん加速していって、止まらなくなるんだってこと。君のことがすごく好きだよ」
逃したくないぬくもりから、ゆっくりと手を放す。
「竜馬くん、押し付けられる想いは迷惑にしかならないよ。それに今みたいに抱きついたり嫌なことをするようなら、俺にも考えがあるから」
俺が手に持ってるスマホを引っ手繰るように奪って、脱兎のごとく駆け出していった。
俺たちの間に冷たい秋風が吹き抜けたせいで、さっきまで感じていたぬくもりが瞬く間に消え失せていく。
「泡沫の温もり……って感じだな。まるで俺たちの関係みたいだ」
こんなに好きなのに、手にすることが出来ないなんてつらすぎる……。
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